可愛くないから、キミがいい【完】





「はる兄、どういうこと?」

「いや? ホテル高いだろ。高校生だし、通してもらえるか分かんないしな。折角の機会だろうし、いいよ、俺の部屋、貸してあげる。俺は、彼女んとこいくわ。ここから近いし」

「あのさ、はる兄、俺もこいつも、そういうの求めてねーんだよな、まじで」

「遠慮しなくていいのに。あ、でも、後始末はちゃんとして。さすがにそういう処理は、はる兄ちゃん、しゅうのでも嫌だよ。諸々は、ベッド脇の棚ね」

「いや、……まじかよ」

「鍵のスペア、ピアノの譜面台の上な。415のポストに落としといて。着替えも、クローゼットの中にあるから。俺の使っていいし、俺の彼女のもたぶん使っていいと思うので、とりあえず、あるものは、なんでも使って。風呂とかも。アイスも一個ずつなら、はる兄ちゃんは気前がいいので譲ります」

「あの、えっと、はる兄さん? そんな、追い出しちゃうみたいで、悪いですし、みゆは、」

「いや、いーの。俺も彼女のとこいく口実ができたので。じゃーね、みゆちゃんも、しゅうも」




得意げな顔で、手を振られ、呆気にとられている間に、パタン、と部屋の扉がしまる。

その後すぐに、玄関のかぎの施錠音が扉の向こうから聞こえた。



警戒心とか、不安とか、そういったものを丸ごと勝手に捨てられてしまったような感覚に襲われて呆けてしまう。



しばらく、私も和泉しゅうも突っ立ったままでいた。

風のように去ってしまったはる兄さんの部屋で、どう過ごせばいいのか分からないし、勘違いされた果ての、気遣いがなんだかかなり気まずくて。