可愛くないから、キミがいい【完】






大学生の男の人が一人暮らしをする部屋には、今までも何度か訪れたことがある。


ふうん、和泉しゅうのいとこのはる兄さんはこんな感じなんだ、と失礼がないように、こっそりと部屋を観察した。


ローテーブルと、大きな電子ピアノと、大きめのベッドと、テレビ。そのわきの本棚には、楽譜が山ほど積まれている。




私規準では、ちゃらついていない音楽をする人は魅力的だ。それに、タイプのど真ん中ではないけれど、かなりのイケメン。


もしもこんな風に出会っていなかったらしっかり狙っているかも、と思っていたら、なぜか、はる兄さんは、黒いリュックをかついで、部屋から出て行こうとする。


「え、」と、私と和泉しゅうの声が重なって部屋に響いた。

はる兄さんは、ちょっと悪戯な笑みを浮かべて鍵をゆらして、「あとは、ごゆっくり」と言った。