可愛くないから、キミがいい【完】






「猫かぶらなくていいのかよ」

「言われなくても、可愛くいるもん」

「どっちでも。お前の好きなようにしろよ」

「言われなくても、みゆは、そうするの」



和泉しゅうが、玄関のベルを押す。

扉の向こうから足音が微かに聞こえて、ガチャリと扉が開いた。



隙間から、顔をのぞかせたのは、和泉しゅうとは違うタイプの美形の男の人だった。

背が高くって、しゅっとしているのに、ほんの少したれ目で、可愛さとかっこよさをちょうどよく兼ね備えたような顔をしている。



「はる兄、悪い」

「いや、災難だったね。はいって」



はる兄と呼ばれた男の人と目が合って、ぺこりと頭を下げる。



「広野みゆです。ご迷惑おかけして本当にごめんなさい」と、つとめて可愛い声で申し訳なさそうに告げたら、「和泉春近です。しゅうがお世話になってます」と、何やら勘違いしているような返事が返ってきたから、苦笑いしてしまいそうになる。


だけど、そうだ。

こんなの勘違いされてもおかしくない。


そういうんじゃねーんだよな、と嫌そうに、和泉しゅうは否定するかと思ったけれど、「お邪魔しまーす」と、先に部屋へ入ってしまったから、もう一度男の人に会釈をして、私も玄関の中へと入った。