「ーーー可愛いんじゃなくて、可哀想なやつって言うんだよ」
だめだ。どうしよう、泣きそうだ。
そう思ったときには、もう目の縁には生温いものが触れていて、咄嗟に、和泉しゅうの頬を叩いていた。
パチ、と乾いた音が階段に響く。
「いった、」
はじめてだ。誰かに手をあげるなんてことを、まさか自分がしてしまうなんて思わなかった。
だけど、そうするほか、どうすることもできなかった。怒りで、心臓が震えている。
「いわないでよ」
「………なに、」
「……みゆのこと、何も知らないくせに言わないでよ」
「は、」
「みゆのこと舐めないで!あんたのほうが、みゆの上っ面ばっかじゃん。ばっかじゃないの。何も知らないくせに。自分が全部正しいって思ってる。キスしたことはみゆが悪かったよ。ごめんね、ただ、利用しただけだもん」
「……、」
「でも、みゆだって、本気になったことくらいある。それで、嫌な思いしたことだってあるんだから。和泉君の言うとおりだよ。可哀想だよ、どうせ」
「…………」
「………みゆ、ずっと、ずっと、可哀想だもん。可愛くいるのに、可哀想なままで、どうすればいいのか分からないもん。……惨めだよ、どうせ、惨めで、可哀想なだけ」
ぽろぽろと涙が落ちていく。
知ってる、今、全然可愛く泣けていない。
視界に映る和泉しゅうが歪んでいる。こんなやつに泣き顔なんて、見せたくない。なのに。
あんたの言葉で傷ついたんだって、どうしても主張したかった。
だけど、プライドがズタズタだ。
可愛くも強くもなれない。
ぎゅう、と唇をかむ。
涙が止まらなくて、
もうこれ以上はダメだと思った。



