マトイ君の温かい手のひらで、
 ずっと握られたままの、私の手首。



 そこから熱が体をめぐって。

 今、脳が侵され始めている。



 マトイ君は、無言のまま、
 私の半歩前を歩いているから

 どんな表情かなんてわからない。



 ましてや、ドキドキが増している私は

 恥ずかしくて
 地面を見つめることで精いっぱい。



 マンションのエントランスを通る。


 エレベーターの中も、手首の温もりを感じたまま。



 ある玄関ドアの前で、やっと手首を解放してくれた。



「マトイ君、ここって?」



「入ればわかるから」



 入ればわかるって言われても。

 さすがに怖すぎだよ。