私の頭の中からすっぽりと消えた、7年間の記憶。



 病院の先生曰く

 いつか私の頭の中から、すべての記憶がなくなって

 自分が誰かわからなくなる日が来るかもって
 言われている。



 そんな脳の病気を抱えた私が、
 誰かと結ばれていいはずもなく。

 
 『可愛そうだから一生面倒見てあげる』なんて、
 同情をされたくもない。



 マトイ君は、稽古3日間と舞台の本番が終われば、
 会うこともない相手。

 好きにならないように、気をつけなきゃ!!



 ドキドキする心をごまかすように、
 大人の余裕がある女の笑顔を顔にペタリ。

 私は、稽古場のドアを開けた。