「やっぱり、マトイ君だ」



 へ? 



「このドア、すりガラスだから。 
 誰か立っているなって思っていたんだけど。
 なかなか入ってこないから」



 穏やかなに目じりを下げ、
 俺に微笑む、30歳くらいのイケメン。



 俺がずっとドアの前に立っていたって、
 バレてたのかよ。

 マジで、恥ずかしすぎ。



「看板もインターフォンもないし。
 ここでいいのか、心配にさせちゃったかな?」



「いえ……」



 語尾が消えかけた俺の返事を聞いて、
 更に微笑みを追加し。

「寒かったでしょ?中にどうぞ」と勧めてくれた。



 足を踏み入れた先には、
 机が並ぶ事務所のような場所。

 ここに、俺たち以外の人の気配はない。



 仕事ではないとはいえ、
 きちんと挨拶をしないとな。


 小5から、蓮見に叩き込まれたことを実践する。