「その点、宗介さんのほうは単純明快だよね。紅を落としたいから、居候は大チャンスと思ってるわけでしょ」
「チャンスとか……そんなことは考えてないと思うけど……多分」
「考えてるわよ、絶対! あ、お腹空いたから悪いけど先に食べるわよ」

 玲子は自分の分のサンドイッチにかぶりつく。彼女が頼んだのはボリューム満点のBLTサンドで、こちらもものすごく美味しそうだ。

「聖人君子じゃないんだから、下心はあるわよ絶対に。でも、あっちは直球できてくれてるんだから紅も難しいこと考える必要なくない?」
「どういう意味?」
「だからさ、元婚約者とかはこの際どうでもよくて……単純にアリと思えば付き合えばいいし。ナシならさっさと追い出しなさいよ」

 宗介はアリかナシか……。

「それがさ……困ったことに……わからないのよ」

 紅はがくりとうなだれた。

「長いこと婚約者っていう存在で、異性として好きとか嫌いとか考えたことなかったし……」

 宗介は大切な人だ。それは間違いない。けれど、それが恋愛感情なのかと聞かれると……答えに困ってしまう。そもそも、恋愛感情ってどんなものなのだろうか。紅の場合、まずそこからだ。

(そういうものを学ぶべき青春時代は、恋愛どころじゃなかったしなぁ)

「でもさぁ……シたことはあるんでしょ?婚約者だったわけだし」

 玲子の遠慮もなにもない質問に紅は思わず飲んでいたアイスティーを吹き出しそうになった。

「いや、えっと、その……」
「大丈夫。答えは聞かなくてもその反応でわかったから」