旬の言うことはもっともだ。宗介だって自分は女に執着するようなタイプではない……とかつては思っていた。

 宗介の父親は弁護士で、大規模なローファームの代表をしている。親戚も法曹関係者ばかりだ。
 長年にわたり宮松の顧問弁護士をつとめてきた宗介の父と紅の父親とは、ビジネスをこえた仲だった。ふたりとも野球好きで、贔屓の球団が同じだったことが意気投合のきっかけだったと聞いたことがあった。 

 紅は伝統ある旧家のご令嬢らしく、品のある礼儀正しい少女だった。ずっと、かわいい妹のように思ってきた。
 婚約だなんだという話が出たときはさすがに驚いたが、大人になった紅が嫌だと言ったらやめればいい。その程度に考えていた。宗介のほうは、彼女と結婚しても構わないと思っていたが、それは愛ではなくやや打算めいた思惑からだった。
 桂木家の長男の妻に、宮松のご令嬢ならぼどこからも文句は出ないだろうと思ったのだ。当時の宗介はそういうことばかり気にする、つまらない男だった。