「メンソールのタバコを吸っている
 僕はいずれにしても被験者だけれど、
 そんな自覚症状はないよ」

僕がそういうと相沢はタバコを取り出して

「俺はダメなんだよなぁ。
 あの清涼感?はガムで味わいたいね」

と言って席を立った。

灰皿なら隣のテーブルに見えたけれど、
それは相沢なりの気の回し方なのだと思った。



ふといつもガムを噛んでいた河野を思い出した。

僕はガムを噛むと捨てるタイミングがはかれず
困るのであまり好きじゃない。

メンソールの涼しげな口当たりは
そんな僕に二重の充足感を与える。

奈津美はレンガ色のバッグを探っていた。

「キシリトール、あるよ?」

と言ってガムを差し出したその右手に、
シルバーのリングははめられていなかった。

そしてそのガムは、
河野がよく噛んでいたものと同じだった。

僕はそんなことに気付く自分のめざとさを呪った。