幼馴染の聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒について行く事にした。


「前の勇者が育たず還ったのは、痛かったかもしれん」

 新たな勇者はここに来るまでにパーティークランのアイテムで、レベル29まで上がっている。
 だがダーダンや神の力を取り込んだ寄生幻虫がなにをしでかすかは、誰にも予想が出来ない。
 魔王の城の扉から出る黒い紐は、数を増していくばかり。
 なにが起こるのか。
 少なくともセレーナのゲームの知識は、まったく役に立たなくなった。
 大魔王どころではないモノが、今生まれようとしている。

「!」

 ドゥ、という聞いた事もない不気味な音が洞窟全体に響き渡った。
 地面が揺れ動き、天井から小石が降ってくる。
 まずい、これは……!

「いかんな、崩れる。みんな儂の側においで」
「動いて大丈夫なんですか!」

 ロニが叫ぶ。
 だが揺れはどんどん激しさを増していく。

「動けるうちに師匠の近くへ!」

 そう、俺が叫ぶと近くにいたロニたちが先に師匠の隣に行く。
 ステルスはタニアを抱き寄せて翼を広げた。
 ああ、あいつは問題ないな。
 俺はセレーナを抱き上げて、瞬歩で跳ぶ。
 その瞬間、俺とセレーナのいた場所が崩れた。
 間一髪……!

「……なるほど、それで『鳥族種の魔王』が呼ばれていたのか……」
「え?」

 師匠がステルスを見上げながら呟く。
 洞窟が崩れても、ステルスは自らに結界を張っているためケロリとしている。
 一応こちらも頭上と足下に師匠の結界があるので、揺れは感じなくなった。
 だが宙に浮かぶステルスはますます地上から離れていく。
 タニアを抱えたまま、崩れた天井から空へ。
 これでタニアは、大丈夫だろうが……。

「この世界の魔物や野生動物は、ほとんどが魔王ステルスの影響で鳥化しておるじゃろう? そのおかげで大地震が来てもだいたいは生き延びるよ」
「!」
「問題は人間。大型結界を重ね合わせた超大型結界を用いても地面の揺れはどうにも出来ない。対策をしたのは無数のハリケーンが起こる多嵐(デッド・タイフーン)に対するもののみ。いかんなぁ、これは」
「そ、そんな!」

 そもそもなにが起こっているのかが分からない。
 師匠は相変わらず余裕の笑みだが、機嫌が悪い時の目だ。
 俺とセレーナの旅は、多嵐(デッド・タイフーン)を遅らせるためのもの。
 でも、それが無意味になったのか?
 そんな……!

「ライズ……」
「……なにがあっても……俺は君を守るよ」
「っ……」

 セレーナの弱々しい声。
 こんな声は、前世の記憶があると告げられた時以来だな。
 肩を抱き寄せて、天井を見上げる。
 うっすらと空が赤くなっていく。
 雲がまるで吸い込まれるように流れ、消えていくのは上空の風が強すぎるせいだろう。

多嵐(デッド・タイフーン)だな。だが、想定していたより規模が小さい。ふむ、これならば通常の大型結界石で町は守れる」
「本当ですか!?」
「だが多嵐(デッド・タイフーン)による環境改変は止められない。それに、下からなにか来るぞ。地殻から上に出てこようとしておる。そのための揺れじゃ。……ステルスの部下の魔族を取り込み知恵をつけ、自我を持ち、外の世界に羽化しようとでもいうんじゃろうか」

 羽化。
 その言い得て妙な表現に、自然に眉が寄る。
 なにかが、出てくる。
 この世界の神に寄生していたなにかが。
 意思を持って。

「ライズ」
「は、はい」
「儂はお前たちが埋めた魔法石を使って多嵐(デッド・タイフーン)を弱める方に力を注ぐ。足場は維持しておいてやるから、勇者の聖剣を使って寄生幻虫を斬りなさい。レベルやステータスを考えてもお前にしか出来んじゃろ」
「えっ」

 俺は勇者ではないから、聖剣は使えない。
 それを言うと、師匠は黒い剣を一本投げて寄越した。
 先ほどダーダンを絡めていた剣は消えているので、新しいものだろう。

「これは……」
「儂の黒炎能力は『剣』。それは神の力も斬る。聖剣は勇者にしか使えんから、ライズ、お前が道を切り開き、勇者が聖剣で寄生幻虫を斬るんじゃよ。儂が燃やすと神まで燃やしちゃうからな」

 さらりと世界滅ぼしてしまうような事をおっしゃってる。
 さすが師匠。
 だがそれはさせられない。
 なるほど、だから俺がやるしかないわけか。
 ヨルドではレベルもステータス値も足りない。
 セレーナは剣を扱えない。
 ステルス……は、基本的に味方ではない。

「セレーナ、行ってくるよ」
「……ライズ……っ」
「必ず戻る。君のところに」

 このまま手をこまねいて見ているわけにはいかない。
 師匠に教えを乞うたのは、セレーナを救うためだったのだ。
 ずっとゲーム通りになったらどうしようと、俺が離れていく事を恐れていた君を安心させたくて強くなった。
 世界が滅んだら君と一緒に生きていけない。
 だったら今やるべき事は一つだ。
 世界を守る。
 救うんだ。
 それが君との未来を守る事に繋がる。

「儂の剣を貸し与えるのだから、男を見せろよ」
「はい! 勇者殿! 参りましょう! 必ず寄生幻虫のもとへお連れします!」
「……っ……」
「勇者殿……!?」

 顔色が悪い。
 体が震えて、聖剣がカタカタと鳴っている。
 ハッとした。
 彼女はこの世界に召喚されてきたばかりの、極々普通の少女。
 いくら正義感で動こうとしても、不慣れな戦場と一方的に押しつける重責。
 彼女の双肩には、本来関わる事もなかった世界の未来がのしかかっている。