幼馴染の聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒について行く事にした。


「タニアは隠れていろ!」
「う……」
「セレーナ、合わせる!」
「うん!」

 俺自身にも強化をかけ、左右から回り込む。
 だが、蛇型の魔物は動きが不規則でとぐろを巻きながら頭を前後左右に動かすので狙いが定まりづらい。
 セレーナの打撃もあまり効果はないので、俺が斬らなければ。

「セレーナ!」
「任せて!」

 グレインズスネークは大型。
 その上この強さともなると、広範囲技で一度動きを止める他ない。

「落葉斬!」

 ヨルド戦で使った広範囲技。
 だがこれだけでは仕留めきれない。
 その間セレーナが自分に強化魔法を重ねがけする。
 スネークが怯んだ瞬間、地面が割れるほどセレーナが踏み込む。

「牙突拳!!」
『グァァッ!』

 一点集中。
 セレーナの拳がスネークの皮に穴を開ける。
 いかに皮膚が硬くなろうとも、あの技で魔法も使わず防げるのはグレインズロックドラゴンぐらいなものだろう。
 その穴を、狙う!

『グオォ!』
「セレーナ!」
「っ!」

 剣を構えた時、スネークの尾がセレーナに襲いかかって吹き飛ばす。
 攻撃のチャンスよりも、彼女の後ろに回り込んでクッションになる事を選んだ。
 思い切り背中が木にぶち当たって……なんなら倒してしまったが……俺は鎧を着ているのでダメージはほとんどない。

「大丈夫か、セレーナ……っ」
「あ、ありがと……うっ!」
『クオォロロロロロ!』
「っ」

 セレーナを後ろから抱えて横に飛ぶ。
 スネークが口から吐いたのは毒だ。
 噛みつくのではなく、毒を吐くとは!
 あの大きさになると噛むより毒を吐いてかけた方が楽という事か?
 どちらにしても異常状態になるのはまずい。

「だめ、ライズ! そっちは!」
「!」

 木。
 セレーナを抱え直しつつ、半回転して垂直に着地し、その勢いを使ってさらに飛ぶ。
 俺が蹴った木は、スネークの尾で潰される。
 前方からは、頭!

「くっ」
「ライズ!」
「!」

 セレーナの声に手を離す。
 ふわりと浮かび上がったセレーナは、体を回転させてちょうど頭が真下になった瞬間拳を振り下ろした。

「真空波斬拳!」
『ルオオォ!』

 俺の方には尾がものすごい勢いで木を薙ぎ倒しながら迫ってくる。
 剣で応戦するが、巻き込まれて飛ばされた。
 ぐう……強い。
 技を出す隙はかろうじてあるが、バフタイムがいつまでも終わらない!
 さては師匠、重ねがけし続けているな!?

「う……うーーー! すてるす!」
『えぇい、仕方ない……魔王を使役するなど、本来なら許されんのだからな!』

 なんの声、と思うと真横から翼の生えたグレインズボア!
 スネークと俺たちの戦いに触発されたのか、突進してきている!
 タニア!

『獄吐炎!』

 ステルスが、あの小さな体で火球を吐き出す。
 ここまで熱が感じられる、超高温!
 魔王が放つ、魔王の獄炎。
 直撃すれば骨も残らないそれを、魔王ステルスが、タニアを守るために……!?

「ほう……」
「ス 、ステルス……!? どうしてタニアと……」
『決まっている』

 ゾワ、と周りの空気が変わる。
 しまった……!
 魔王ステルスの、魔力か!

「我の魔力を取り戻すための、超緊急避難的処置よ! 幼女相手ならばたとえテイムモンスターと化したところで、我を強制的に従えられるはずもないからなぁ! わははははは! 戻った! 戻ったぞ! 我こそは魔王ステルス! この世界を改めて破壊し尽くしてや——……」

 ああ、バカ……!
 そんな絶好調に師匠の目の前で復活したら……!

「そうか」
「——は……」

 人の形に化けたステルスの、目の前に逆さまで回り込んだ師匠。
 ここからでは表情を見る事は出来ないが、優しい声色。
 つまりいつもの優しい笑みなのだろう。
 体躯こそ十歳の少年に見える小ささ。
 その小さな手がステルスの頭を包むように添えられる。
 ステルスとは、俺とセレーナも戦った。
 だから分かる。
 あんなに至近距離に、接近に気づかれる事もなく触れる事など出来る相手ではない。
 瞬きもしていない、隙もない。
 なのに、ただ息をしただけで、もう、そこにいる。

「それならそれでもよいぞ」
「〜〜〜〜〜っ」

 それだけ言って離れていく。
 魔王ステルスは、魔王族の中では中の下、らしい。
 人間に倒せるレベル。
 それでも俺たちにとって脅威でしかない魔王。
 そんな魔王が、たったひと撫でされただけで膝をつく。

「あばばばばばばばばばばばばば……」

 か、かわいそうに……。
 完全に戦意喪失している。

『クロロロロロォ……』
「!」

 空気の変わった事に動きを止めていたグレインズスネークが動き出す。
 尾で薙ぎ払う攻撃……!

「くっ!」

 身体強化魔法を、限界まで重ねがけする。
 俺でさえ十回の重ねがけが限界。
 これを五十回分重ねがけするなんて、やはり師匠はありえない。
 そして多分だが……レベル50のグレインズスネークに五十回分の強化魔法……一回の強化魔法がレベル1分とするとグレインズスネークのステータスはおよそレベル100の時点で到達する数値。
 この世界……『アクリファリア・シエルド』の限界レベルは、100。

「……」

 にやりと笑う師匠が目に入って確信する。
 あの人!
 この世界の、あのグレインズスネークの!
 限界値ステータス数値になるまで強化魔法重ねがけした……!
 とんでもない! とんでもないぞ! ほんとぅ!