幼馴染の聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒について行く事にした。


「うっ……で、で、すが……ですが子どものうちは、やはりたくさん食べた方が……」
「そ、そうですよ! 食べられないより食べられる方がいいじゃないですか!」
「うー! おかし! たべたい! おにく! さかなぁ! やさい、あきた! うわーーーん!」
「「ほ、ほらぁ!」」
「うーーーーん」

 タニアもこう言っている!
 思わず泣き叫ぶタニアをセレーナと共に左右から抱き締める。
 まだ五歳くらいのタニアに、太り過ぎだからと節制させるなんて……可哀想だ。
 それでなくともタニアは翼竜の巣に捨てられ、竜に育てられた。
 竜といえば知性が高く、タニアのコミニュケーション能力の高さを思うとそんなに悪くない育て親だったのかもしれないけれど……それでも火を通してなにかを食べる、という習慣はなかったはず。
 よくここまで無事に育ったものだ。
 そんなタニアに、味付けして工夫した『料理』を色々食べさせてあげたいじゃないですか!
 ……確かにちょっとぽっちゃりしてきたような気はするけれど、これは許容範囲では!

「なるほどなるほど、相分かった。タニアの肥満の原因はお前らの過保護と甘やかしじゃな?」
「「…………」」

 にこり。
 師匠の笑顔の質が変わった。
 弟子だからこそ分かる……この笑顔はヤバい。

「ライズだけでなくセレーナも同じ意見か? ん?」
「……えっ、え、えーと…………、……ぐっ……うっ」

 分かる。分かるぞ。
 セレーナも“察した”んだな!
 この笑顔の師匠はヤバい。
 なにがヤバいってこっちが本当に死にかけるまで容赦なくなるからヤバい!

「ところで、魔法石の気配が残り一つだな? 残りの魔法石の設置場所はどこじゃろう?」
「……え? あ……さ、最後のダンジョン……『グレインズ』です……」
「西南にある孤島のダンジョンか……うむ、うむ……では食制限はやめて、そちらで鍛えよう」
「「は?」」

 え? き、聞き間違いか?
 西南の孤島のダンジョン『グレインズ』は『魔王の城』に通じる高レベル推奨のダンジョン!
 その推奨レベルは50〜60!
 以前は橋が架けられていたが、『魔王の城』と繋がってしまった事で橋は取り壊され、孤島となったような場所……。
 そこにタニアを、連れて行く!?

「ま、待ってください! 師匠! タニアはまだ戦い方も覚えていないのでは……!」
「テイマー志望なのだろう? テイムする魔物は強い方がよいではないか。安心しろ。儂も一緒に行ってやろうぞ」
「「「…………」」」

 あ、これ問答無用なやつ……。

「口を開くなよ。舌を噛むぞ」
「わ」
「おわーーー!」
「ううー!?」
『イヤー! なんでオレまでー!?』
『待てぇ! なんで我までーーー!?』

 レトムとステルスも巻き込んで、気がつくと『グレインズ』の前にいた。
 転移したのだ。
『魔王の城』と通じる最難関ダンジョンの一つ『グレインズ』……。

「魔法石を埋め込んでしまえ」
「あ、そ、そうですね」

 師匠に言われてハッとする。
 そうだ、ここにこれを埋めれば、魔法石の設置はすべて完了するのだ!
 魔法で穴を開け、魔法石を埋め、結界を張り、土をかけて埋め直す。

「完了です」
「うむ。あとは魔法石が作用し合って、多嵐(デッド・タイフーン)の発生を阻害するだろう」
『環境作用型の魔法か。まったく王獣種はこれだから……』
「すてるす……おーじゅーしゅ、なに?」
『あ? ああ、コイツのような化け物の中の化け物……神も殺す力を有する獣の事だ』
「うー?」
『ま、分からんならそれでもよいのではないか』
「うー」
「タニアや、あまり横着してサボるんではないぞ。今はよいが儂、そのうちイラッとしそう」
「…………」

 そっ、とタニアが俺とセレーナの裾を掴む。
 うん、分かる。
 気持ちはとてもよく分かる。
 師匠の笑顔が今日も怖い。

『グゥロロロロロロ!』
『ぎゃー! 蛇みたいな魔物ーぉ!』
「お前も魔物だろう……」

 レトムが俺の懐に入り込んでくる。
 こいつ、俺の懐に入り込むの癖になってないか?
 だいたい蛇型の魔物より竜種であるお前の方が、本来生き物として格が上だろうに。

「……グレインズスネークね」
「もふもふな蛇というのかシンプルに腹が立つ」
『なんでだ! いいだろう羽毛!』
「もふもふ!」
「いや、もふもふしてればいい生き物ともふもふしちゃダメな生き物がいるだろう。爬虫類系はもふもふしてると気持ち悪い」
『なんでだ!』

 なんででもだろう!

「セレーナ! 俺が抑えている間に、タニアとパーティー設定を頼む!」
「! 分かったわ! タニア、おいで!」
「うっ!?」

 グレインズスネークのレベルは50。
 速い。
 まだ入り口だというのに、こんなのが出るとは。
 とはいえただのレベル50。
 剣に魔力を通す。
 一撃で——。

「うむうむ、このままでは修行にならんからな……少し手を貸してやろうな」
「は?」

 ひょい、と師匠が飛び上がる。
 グレインズスネークの頭に触れると、その瞬間俺の鑑定魔法で分かる範囲だけでも強化魔法五十重ねがけがなされた。
 別な生き物にしたとか、そういうレベルではなく。
 一つの強化魔法で、レベル一つ分のステータス値上昇……。

「ぐうっ!」
「ライズ!」

「ライズ! 私が前に出るわ!」
「分かった! かの者へ力と守りの加護を! ステータスアップ!」
「はああああっ!」

 物理攻撃力と物理防御力アップの強化魔法。
 レベルは差があるが、師匠がグレインズスネークへ重ねがけした強化魔法の数は俺が把握しているだけで五十。
 一つの強化につき一つのレベルアップ状態と思うと、あのグレインズスネークのステータスはおよそレベル100の状態に近いはず。
 それでも俺たちの方がレベルは高いが、だからステータス値が離れているかと言えばそうではない。
 元々同じレベルでも魔物の方がステータス値は上なのだ。
 レベル差があったところでステータス値に差があれば、負ける時は負ける。
 人間だって個々に得手不得手というものがあるのだ。
 “個人の能力”の底上げ。
 それを目的とするのなら、師匠のやり方はまったくもって正しい。

「セレーナ!」
「くっ!」

 セレーナの初手を避けるグレインズスネーク。
 速さが尋常ではない。
 反応速度も、防御力も、従来のそれではないだろう。
 バフタイムが切れるのを待つか。
 いや、そんなの許してくれるような師匠ではない!