幼馴染の聖女が勇者パーティー追放されたから、俺も一緒について行く事にした。


 翌日。
 早朝から花火の音がして、その音で目を覚ます。
 なんとなく嫌な予感を抱きつつ宿の部屋のカーテンを開くと案の定……屋台が準備中。
 恐るべし『神殿』……たった一晩で祭りの準備を整えおった。

「……ふむ……しかしまあ、ちょうどいいとも言える、か……」

 でも目立つのはあまり好きではない。
 俺の可愛いセレーナが、多くの男の目に触れる機会が増えるのも面白く……いや、待てよ? 改めて大勢の前でプロポーズするのはどうだろう?
 セレーナを俺の婚約者である、と堂々と知らしめる好機でもある、と思えば。
 だが一応、もう婚約者だからプロポーズはおかしい、か。
 うーん? じゃあ次は結婚式か?
 さすがにそれは準備が足りない。

『うーん、おはようございますマスター。本日は……くああぁ……いよいよナントカ氏との決闘っすねぇ〜』
「ああ、おはよう。ヨルドだぞ」

 レトムも起きたな。
 まだ眠そうだが。

「……まあ、負ける事はないから問題はない。問題は……」

 俺が勝ったあとのヨルドだろう。
 来年武闘大会で優勝すれば『剣聖』を名乗る事を許されるはずだろうに……俺に負けた時の事はきっと考えていないのだろうな。
 無理をして死ななければいいのだが……。
 あ、そうだ。
 いい事を思いついたぞ。

「さて、では行くとするか」
『ようやくまともな戦闘の見せ場ですね!』
「そういう言い方はやめろ」

 切なくなるだろう。



 セレーナたちと合流し、町の中心部にあるコロシアムに入る。
 コロシアムの中は大勢の魔法士が集まっていた。
 あ、これ全町放映されるんだな?
 まあいいか。

「なんだか武闘大会みたいでワクワクしてきたわね」
「セレーナは聖剣の方を見ててくれないか? どういう流れになるのかまるで聞かされていないから、いつ勇者召喚が行われるか分からない」
「えー、ライズがカッコよく勝つところを見たかったのに」
「俺も勝利した暁にはセレーナに改めてプロポーズしようと思っていた」
「そ、それはやらなくていいかな……」
「そうだな。次は結婚式の方がいいよな」
「そうじゃないけど! もおおお、ライズのバカー!」

 スカッ!
 セレーナに殴られるのはちょっとダメージがデカすぎるので、さすがに決闘の前だから避けた。
 普段なら殴られてもいいのだが、万全の状態で挑まなければ……。

「恥ずかしいじゃない、そんな事されたらー!」
「ごふうっ!!」
「ひっ」

 ……甘かった。
 まさかの二段構え。
 背中への一撃を避けたせいで腹パンはモロに食らった。
 なぜグーでやらかしたのだセレーナ。
 体力値が半分に減ったぞ。
 俺の体力値的に今から全快させるのは困難……というか俺の体力値でさえ半分も減る、だと……!?
 おそらく手加減はされている……されてはいるだろうが、この威力……!
 もうお前『拳の聖女』というより『腹パン聖女』の方が似合ってるよ……!?

「じゃあ、私とタニアは聖剣を見に行くわ。ヨルドなんで秒殺して早く来てね」
「あっ……ああっ……!」
『マ、マスター……大丈夫ですか……』
「これしき……問題はない。ちょっと体力値が半分にされて能力値が半分くらい封印されたが……本気のセレーナの拳ではないから、半日で解ける」
『えっ!? ま、待ってください!? やばくないですかそれぇ!? 能力封印されてるとか激ヤバくないですかぁ!?』

 ちょっとヤバいかもしれない。
 ヨルドの鍛え方によっては、だが。
 セレーナ……お前は本当……もう、そういうところ!

「はははははは! よく逃げずに現れたな!」
「あ」

 出た。
 ヨルド・レイス。
 相変わらず声も態度もでかい男だ。

「お前の入場口は反対側だ! 残りわずかな『剣聖』の時間を、せいぜい噛み締めるんだな! ははははははははは!」
「あっちか。分かった。レトムはどうする?」
『あー、じゃあ一緒に行きます。一応テイムモンスターなんで、おれ』
「そうか」
『でも戦いませんよ』
「期待してないよ」

 少しだけ久しく思う通路を通り、コロシアムを回り込むように赤の入場口へ向かう。
 歓声が聞こえてくる。
 意外だ、たった数日と思っていたが、ヨルドは観客の準備までしていたのか。
 よほど俺の負けた様を多くの人に晒したかったらしいな。
 自分が負ける事を、本当に想定していない。
 逆に尊敬するぞ、そんな自信。
 俺は俺の強さにまだ自信を持てない。
 師匠を見ていると、一体あの領域に至るのにいくつ壁を越えなければいけないのかと絶望する。
 人ならざるものだからこそ至れる領域。
 人生の何千回、何万回を費やせば至る事が出来るのか。
 ヨルド、お前は天上を知らないから。

「……」

 入場口を通ると、大歓声が迎えてくれた。
 実況と審判を行う男の声が俺の自己紹介を、過剰なのではと思うほどに大袈裟に語る。
 すでに剣を携えて眼前で笑うヨルドは、己の勝利を微塵も疑っていない。
 ここに来るまでなにも妨害や嫌がらせなども受けていないので、奴が正々堂々と俺と戦いたがっているのは間違いないようだ。
 ならば、やはり正面から相手をしよう。

『マスター、御武運を』
「ああ、なにも問題ない」

 レトムが観客席の方まで飛び上がる。
 剣を抜く。
 能力値が半分くらいになっているが、さあ、ヨルド。

「それでは両者構え! 決闘……開始!」

 世界のために負けてくれ。