最後の一夜が授けた奇跡

会社で律樹のことを名前で呼ぶなんて今までほとんどなかった。
誰かに聞かれていたらとずっと警戒していた。

でも今はそんなことを考える余裕はない。

理事長がくる予定の時間まであと少ししかない。

その短い時間で律樹を説得するしかない。

正直・・・焦ってしまう。

律樹の気持ちはうれしい。でも律樹が今の地位につくまでどれだけ苦労をしてきたか、ほかの誰よりも一番近くで私は見てきて知っている。

悔しくて夜中にお酒を飲んでいる姿も見て来た。
うまくいかなくて握りしめた手が真っ赤になっている律樹も見て来た。
何を言われても我慢して、唇から血がでるほど歯を食いしばっている姿も見て来た。

隣でどれだけ律樹が努力をしてきたか知っているからこそ、それを無駄にしかねない私という存在が、申し訳なくもあり、怖くもある。