最後の一夜が授けた奇跡

私は自分でタクシーを呼んでいつもの場所へ向かう。

そこは多岐川がいたころから変わらない。行きつけのスポーツジム。

専用の更衣室に入り水着に着替えてから私は泳ぎ始める。

誰もいないプール。

でも私は泣かない。

多岐川とのデート以来私は泣くことがなくなった。

それは決してつらいことがなくなったからではない。

むしろあのころよりもつらいことは圧倒的に増えている。

でも、つらいことがあった時、私は必ず思いだす。

多岐川の言葉を。
そして心の中で繰り返す。