石川財閥の経営は今は決して安定しているとは言えない。
でも、その不安定さを表に出したら負けだと父は、不安定な時こそ高級ブランドで着飾る。

平静を装うように私にも言った。


「はぁ・・・」
私がつい漏らしてしまったため息に運転手兼、専属秘書の多岐川亮太はすぐにルームミラーで私を見る。
「お疲れですか?少し休みましょうか?」
「大丈夫」
唯一といっていいほど私を理解してくれる存在の多岐川。

歳は私よりも5歳年上。

でも、中身が空っぽの私に比べたら実にしっかりとしている。

一緒に過ごしているこの数年で、多岐川がかなり実力者だということはわかっていた。