お見合い会場までは、利人とは違う車で運ばれた。


利人が付き人をしてくれるって知って、その立ち位置は複雑だけどそばにいられるならうれしい。



うれしいはず、だったのに。



「菜結様、お手をどうぞ」



ドレスで階段を降りるとき、手をとってくれたり

ヒールの紐が解けると、その場に跪いて治してくれたり。



あたしのことを「菜結様」とか意味分かんない名前で呼ぶ利人が、とつぜん知らない人になっちゃったみたいで悲しかった。



「利人は召し使いじゃないんだよ。あたしのことも、ちゃんと名前で呼んでよ……」



ふたりきりになる少しの時間を見計らって話しかけても「この場にいる限りは我慢してください」と他人行儀に返事をするだけ。



「我慢できないよ! なんでなゆにひざまずいたり、頭さげたりするのっ?」


声を荒げてしまう。



「お前が今まで知らなかっただけだ。これが菜結の立場で、これが俺の立場。これからはずっとそうだよ」