「利人、おはよ……」
利人が迎えに来るより先に、あたしが利人を迎えに行った。
会いたいって気持ちより気まずいって気持ちが少しだけ勝ってしまって、思ったより勢いのないあいさつになる。
「今日、早……くね?」
歯ブラシをくわえた利人が玄関先で自分のスマホを確認する。
「すぐ来るから待ってな」
そっけなくそう言って、ふい、と視線をそらす。
利人っていつもあたしの扱い雑だし、そっけないことにいちいち落ち込んでたらきりがないのはわかってる。
利人があたしをお荷物に思ってることに関してはもう開き直るしかない。
虚しいかもだけど、今は、お見合いギリギリまで甘やかしてもらうことだけ考えるの……。
「なゆ。制服のボタンかけ違えてる」
歯磨きから戻ってきた利人。
あの漫画にショクハツされたあたしは、近づいてきた体にぎゅっと抱きついた。
「…っ、なに?」
硬直する利人。
「キス……きょうのぶんして」
あたしがお見合いを受ける交換条件。
たとえいやでも、利人は断れない、から……。