さっきまで泣いてた目を斜めに逸らしながら、
いったいなにを言い出すのかと思えば。



「利人に1番に言おうと思ってたんだけど。実は、なゆ彼氏できたの……」




……、ああ、そう。

──────で、誰?



妙に冷静に受け止めながらも、問いかけたつもりのセリフは声になっていなかった。

間もなくしてダイニングの扉が開き、エリカさんが顔を覗かせると、なゆは慌てたように体を離す。



「失礼します。旦那様がただ今お帰りになられまして……。なゆさんにお話があるとのことです」



それを聞いたなゆは、わかりやすく顔を青くした。


なゆの父親の“話がある”は十中八九お説教。




バッと俺のほうに顔を向けて、縋るように見つめてくる。目には、またじんわりと涙を浮かべて。



「り、利人……どうしよ……」



……この顔が、嫌いじゃないから困る。



「ばぁか。ざまあみろ」



今日ばっかりは、助けてなんかやらない。