数日後の放課後、いつものように帰るために裏門に向かっている途中で真白先輩と2年生の女の人が一緒にいる所が見えた。俺はどうしても気になってしまい、2人が話しているのを聞くことにした。
「あの、来てくれてありがとう」
「いや、大丈夫だよ。それで話って?」
女の人は緊張していた。その様子から告白しようとしているのだと思った。
「私真白君のことが好きです。付き合ってください」
案の定告白だった。俺の位置からは真白先輩の顔は見えない。喜んでいるのか困っているのかも分からないが、このままその女の人と付き合ってくれれば俺の恋のライバルはいなくなる。そのため俺はどうか良い返事をしてくれと思った。
「ごめん」
しかし聞こえてきたのは俺の期待にそわない言葉だった。
「そっか...。あの...好きな子とかいるの?」
俺も知りたかったことだった。いないか奈緒以外の誰かを好きでいるのが一番良い回答だ。俺は静かに真白先輩の答えを待つ。
「うん。いるんだ、ごめんね」
真白先輩には好きな人がいた。しかしそれが誰なのかは分からない。飛び出して聞き出したい気持ちでいっぱいだが、そんなことはしてはいけないと自制した。
「そっか...。返事してくれてありがとう。それじゃあ」
そう言って女の人はこの場から去っていった。
俺も立ち去ろうとした時振り返った真白先輩と目があってしまった。
「あれ?」
「あっ...えーっと...」
「君奈緒ちゃんの幼馴染の子だっけ?」
「はい...そうです。すみません立ち聞きしてしまって...」
「あー、なるほど。ははっ恥ずかしいな」
立ち聞きしていたことを責めることもなく、恥ずかしがる先輩。奈緒の話を聞いていても先輩が良い人だということは分かっていた。それでも俺はこの人に奈緒を渡したくなかった。
「じゃあ俺が好きな人いるってのも聞いてた?」
「...はい」
「そっか。奈緒ちゃんには内緒ね」
人差し指を立てて内緒と言う真白先輩。この瞬間真白先輩が好きなのは奈緒だと分かってしまった。
「わ...かりました...」
「それじゃあ」
俺の肩に軽く手を触れ、去っていく先輩。
俺の頭の中で先輩の「内緒ね」という言葉が渦巻いていた。奈緒と真白先輩は両想いだ。それを知っているのは俺だけ。もし俺が奈緒の背中を押せば二人は両想いになってしまう。
「...いやだ」
奈緒の気持ちを消せず、頑張ってみようと思った俺に背中を押すことなんてできるわけがなかった。
好きな子が幸せになる道を知っているのに、それを隠す自分をズルいとも思った。それでも長年想い続けてきたこの心をなくすことはできなかった。