その後テレビを見ながら他愛無い話をしていた。もうすぐで4時になりそうな時雨が降ってくる音が聞こえた。
「降ってきちゃったね」
「あぁ、そろそろ帰ろうかな」
この後も降り続けるだろうから今のうちに帰ろうと立ち上がったその時だった。
「わぁっ!」
大きな雷の音に驚いた奈緒が俺に抱きついてきた。
「うわぁっ!」
急に抱きつかれたことに驚いた俺はバランスを崩して尻餅をついてしまった。奈緒はそのまま俺の上に乗る形になってしまった。
奈緒は幼い頃から雷の音が苦手だった。それは高校生になってからも変わらず苦手なままだった。俺は優しく背中をさする。
「相変わらず雷怖いんだな」
奈緒は俺の胸に顔を埋めたまま答えない。そんなに怖がっているのかと思ったが、震えてるわけでもなくただ動かなかった。そんな奈緒を不思議に思った時だった。
「なんでだろうね」
「え?」
「蓮都が紫乃たちといるの見た時...淋しかった」
「奈緒...?」
それはまた雷が鳴ったらかき消されてしまうほどか細い声だった。
「今日蓮都が来た時嬉しかった」
淡々と言われる奈緒の思いに俺はどうしたらいいのか分からず戸惑う。
「先輩と出掛けて楽しかったはずなのにその夜淋しい気持ちが消えなかった」
喜んで良いのだろうか。奈緒は先輩と出掛けた日の夜に俺のことを気にしてくれていた。
奈緒の手を引いて振り向かせるなら今しかない。
「奈緒...俺...」
俺の気持ちを言おうとしたその時だった。
「あーー!降ってきたーー!」
元気な声が聞こえてきてビックリした俺たちはすぐに立ち上がる。ドキドキしながら立っている俺と隣で同じようにテンパっている奈緒がいる部屋に奈緒の両親が入ってきた。
「あっ蓮都くん、来てたんだー」
「あっ、はい、お邪魔してます」
「つ、机の上に置いてあるバウムクーヘン持ってきてくれたんだよ」
「えっ、わーい!これ好きなんだよねぇ。ありがとうねぇ」
「い、いえ」
「...なんかあった?」
俺たちの様子がおかしいのが分かったのか、奈緒のお母さんに不審がられてしまった。
「いえ!そんなことないです。じゃあ俺はこれで」
そう言って俺は逃げるように部屋から出ていった。
「蓮都くん。玄関にある傘使っていっていいからね」
「はい!ありがとうございます」
奈緒のお父さんに軽く頭を下げ、そのまま俺は駆け出すように家を出た。
外に出て、一度深呼吸をする。それでも胸のドキドキは治らない。
「...なんだったんだよ...」
貸してもらった傘をさし、雨の中を歩く。
奈緒の気持ちが分からない俺は頭をかいた。