「じゃ、じゃあ由香。俺はもう帰るから...」
「何みてたのー?」
俺の話も聞かず、俺が見ていた方を見ようと隣に駆け寄ってきた。
「運動場?」
「あー、うん。俺の知り合いが陸上部で今練習してるから...」
そう言った俺の顔を由香はじっと見つめる。
「な、なにか?」
由香はスカートのポケットからハンカチを取り出すと俺の目を拭いてきた。
「えーと?何これ?」
「泣かないで」
由香は心配しているようだった。何故こんなことをされているのか分からなかったが、俺は拒むこともなく自然と受け入れていた。
「...大丈夫。泣いてないから」
「本当?」
「うん」
できるだけ優しい笑顔で応える。すると由香は満面の笑みになった。
「良かったぁ〜」
「...俺泣いてるように見えた?」
「うん。陸上部の方見た時悲しい顔になってた」
「やっぱ俺顔に出やすいタイプなのかな...」
好きな気持ちだったら悲しい気持ちだったりすぐ相手に伝わってしまう自分の顔にため息が出る。
「嬉しい時は嬉しい顔して、悲しい時は悲しい顔をする。それでいいと思うなぁ」
「由香はいつでも嬉しい顔してるのかな」
「んーどうだろうね?」
へへっと笑う由香を見て、この子はいつでも楽しい気持ちで溢れているのだろうと思った。
「でも私の大切な人はみーんな笑顔になってほしいなぁって思うんだ」
空を見上げながら言う由香。その顔はとても綺麗だった。
「由香は優しいんだな」
「えー?なんでー?」
「笑顔になってほしいって言う人は優しい人だと思うから」
「えへへ〜。でも私色んな人に迷惑かけちゃうから笑顔よりも困り顔されちゃうことの方が多いんだけどね」
この不思議な感じから迷惑かけることが多いことは簡単に想像できてしまった。しかしどれだけ迷惑かけられても彼女のふわふわした雰囲気や柔らかな表情に最後には許してしまうんだろうと俺は思った。
「由香は笑ってれば良いんじゃないかな」
「え?」
「その笑顔があればきっと皆幸せになれるよ」
俺の言葉を聞いた由香は大きく目を開き、黙って俺の顔を見つめる。
「えーと、俺変なこと言ったかな?」
「あ、ううん。ありがとう〜。前にも同じ言葉言われたことあってビックリしちゃった」
「ふーん?誰に言われたんだ?」