屋上には入れないと決まっている。実際2度程屋上へ行こうとしたが鍵が掛かっていたため入れなかった。しかし鍵が開いてることもあるかもしれないという少しの期待を胸に屋上へ訪れた。
「まぁ今日も入れないかな」
小さく独り言を言いながら屋上の扉のノブを回す。するとその扉はいとも簡単に開いた。
「まじかよ」
扉が開き、見えてきたのは青い空。そして陸上部が練習している運動場も見えた。
「流石に見分けはつかないな」
奈緒と真白先輩が話す所を見る心配がなくなった今を安心しつつ、どこか淋しさも感じていた。
俺はボーッと運動場を眺める。もし奈緒と真白先輩が出逢わなかったら奈緒は俺のことを見てくれただろうか...。いや、そんなことを考えても仕方ない。そう思い、ため息をついた。
20分ほど屋上にいた俺は帰ろうと動き出したその時だった。
「ふわぁ〜」
聞こえてきたのはあくびをする女の子の声。
「えっ?」
声が聞こえた給水塔の方を見ると、その影で大きく伸びをする女の子がいた。
「ん〜、君だぁれ?」
「それはこっちの台詞なんだけど...。ずっと寝てたの?」
「放課後になって、友達が先生に呼ばれたから下駄箱で待ってようと思ったの。そしたらなんかポカポカ気持ちいい場所に出たから寝ちゃったぁ〜」
あはは〜と笑う目の前の子。話からすると下駄箱に行こうとして真逆であると思われる屋上に来たということか...?
「そ、そうなんだ。いつも屋上開いてないんだけどもしかして君が開けたの?」
「うん。なんかてきとうにちょちょっとやったら開いたよ〜」
色々とヤバい人だ。見た目と話し方はふわふわしているが、その中身はヤバい以外の何者でもないと思った。
「名前なぁに?」
「あー、俺は天樹蓮都」
「私花咲由香。由香って呼んで〜」
もうこれ以上関わらない方が良いと感じ、立ち去ろうと思った。