「心配じゃないの?」
「ん?新もついてることだし大丈夫でしょ」
「えっと...好きな女の子が他の男の子と一緒にいるの...」
急に言われたことに驚き俺は咳き込んだ。
「えっ!?な、なんで俺が奈緒のこと」
「あ、いや、ごめん!なんとなくそうかなって...」
「俺奈緒のこと好きだって顔に出てたりする?」
「なんとなく...」
そういえば新も友達になってすぐ奈緒のこと好きなのかと聞かれたことを思い出した。分かりやすい自分に思わずため息が出る。
「少女漫画とかでも幼馴染を好きなのってよくあるからそうなのかなって...」
小さな声で申し訳なさそうに言う香坂さん。そんな表情をさせていることに申し訳なさを感じ俺は優しく笑う。
「確かにね。うん、小さい時から好きなんだ。でも俺は少女漫画でいうところの2番手なんだよ」
「2番手?」
「絶対に結ばれない。最後に一人で涙を流す情けない男だよ」
自分で言いながら泣きそうになる。しかし今のままではそうなる結末しか考えられない俺はそう言うしかなかった。
「...どうして諦めるの?」
今まで聞いてきた香坂さんの声で1番真っ直ぐはっきりしており、俺は思わずたじろいだ。
「えーと、奈緒から聞かない?先輩の話」
「好き...なんだよね...部活の先輩のこと」
「知ってるなら俺が好きでも仕方ないって分かるんじゃない?」
「うーん...」
香坂さんは下を向いて考え込む。
「でも私奈緒ちゃんは天樹くんの話してる時が1番優しい顔してると思う」
「優しい顔?」
「うん。天樹くんのことスゴく信頼してるんだなって分かる」
温かく真っ直ぐな声。その声は確かに俺の心に残った。
「ま、まぁずっと一緒に居たからね。それに信頼してるから好きになるとは限らないし」
「うーん...」
中々納得しない香坂さんに俺は困り顔になる。
「近くにいすぎて気づけない気持ちもあるんじゃないかな」
「...どうだろうね」
奈緒が俺を好きだったらなと考えたことはある。そうだったら良いなと心から思った。しかしその時には必ず先輩の話を楽しそうにする奈緒の顔も思い出してしまっていた。
「私写真を撮るのが好きなんだ」
香坂さんが静かに話し出す。
「良い景色ある場所探して色々歩き回って、時には遠い場所にも行って...。でもある時ふと家の庭に咲いてる花を見て、1枚撮ってみたんだ。その写真がスゴく綺麗に見えて...こんな傍に良い景色があったんだって初めて気づいたの」
とても優しい顔で話す姿に写真を撮ることが本当に好きなんだと伝わってきた。
「いや、あの、ごめん。私の写真の話はどうでも良くて言いたかったのは見えてなかった気持ちもいつか見える時があるかもしれないからだから...その...」
あわあわしながら話す姿に俺の顔が思わず綻ぶ。
「香坂さんは俺と違うんだね」
「え?」
「俺よりも世界の色んなモノを見てる。だから1つの考えに囚われたりしない。俺みたいに最初から諦めたりしない」
「あの、でも恋愛のことになると私もどうなるか分からないから...」
「何となくだけど好きな人できたら香坂さんは頑張ろうって思うんじゃないかな」
「そう...かな...」
「うん。きっとそうだよ」
控えめな印象だったがその心には強い部分がある人なのだと思った。そんな彼女のことを俺は素直に尊敬した。
「...天樹くん。上見て」
その声を聞き、俺は上を向く。そこには満天の星が広がっていた。
あまりの綺麗さに俺は息をのむ。
「綺麗だね」
「...うん」
俺たちは立ち止まり静かな森の中で空を見上げる。その時間はとてもゆっくりに感じられ、心地の良い時間だった。
「きっと俺の瞳で見るより香坂さんの瞳で見るこの景色の方が綺麗に映ってるんだろうな」
「そんなことないよ。同じ様に見えてるよ」
「そうかな」
「そうだよ」
夜の森の匂いと静かな風の音を聞きながら歩く。
大きく広がる星空を見ていると弱気でいる俺の姿がとても淋しく感じられた。
「やっぱ頑張ってみようかな」
ボソッと言った夜の闇に消え入ってしまいそうな声を香坂さんは聞き逃さなかった。
「うん。頑張って」
その時初めて俺は香坂さんの緊張のない柔らかな笑顔を見た。
その笑顔に俺は笑顔で返した。