「朝なわけないでしょ! っていうか、なんで家に帰らないの⁉︎」
「言ったろ、試練を合格しなきゃ天使に戻れないって。天使に戻れなきゃ俺は堕ちるしかない」
つまり、帰る場所がないってことだろうか。
「神様から可愛がられてた俺にこんなとこで寝させるなんてお前も度胸が……へくしゅっ」
喋っていた彼の口から意外にも可愛らしいクシャミが聞こえた。
春といえどまだ夜は冷えるようで、外の空気は少し肌に冷たかった。
立ち上がりもしない様子を見ると、この人はこのまま朝を迎える気でいるようだ。
私は手を握りしめ、意を決して口を開いた。
「……そんなおかしな話、簡単には信用出来ない」
本当、天使だとか信じるなんて馬鹿だと思う。
「今の人間にはそうみたいだな」
……でも。
「……でも今夜だけは信じるから」
「え?」
「こんなとこで寝てたら風邪引くでしょ」
このまま玄関を閉めてしまうことなんてできない。
何故か放って置けない。
私は顔をそらして彼の手を握り、立ち上がらせた。
ずっとここに座っていたんだろう。
握った彼の手は思った以上にひんやりしていた。
なんだか少し申し訳ない気分になりながら私は彼を部屋に招き入れた。
