「じゃぁ私はこれで」
ゴミ箱を持ち上げ、倉庫の方に足を向ける。
「ちょっ、待って」
慌てた声がし、私の肩は後ろに強く引っ張られた。
バランスがとれず、後ろに倒れた私はすっぽりと彼の胸に収まった。
「お前が必要なんだよ」
……なんだろう、このシチュエーションは。
トキメキそうな場面だが、あいにく私は男性が苦手だ。
その上今までの過程を踏まえると不快感しかない。
トキメキとやらが全く感じられない謎の状況に真顔のまま尋ねる。
「えーと、必要、とは?」
「だから俺の与えられた試練に必要ってこと」
「試練て、なんであなたの試練とやらに私が必要なんですか」
片手で不審者を押しのけながら呟く。
話に付き合わなきゃいいのについ聞き返してしまうような
そんな話し方をする天才だな、この不審者は。
そう感じながら、話を聞きつつ倉庫へ向かう。
「俺の試練は、地上に来て最初に出会った人間、つまりお前の恋を成就させること」
「はぁ? コイ? キューピットか何かですか」
「いや、キューピットは天使じゃなくて神様な。俺は天使」
そんなことが聞きたいんじゃない。
金魚のフンのようにつきまとってくる不審者を疎ましく思いつつ、やっと目的地に辿り着いた。
数メートルなのに果てしない旅路のように感じたそこは、
ただのゴミ捨て場なのに達成感で満ち溢れた輝く場所のように思えた。
