私たちは頭を下げ、どちらからともなく謝った。

「ごめん」
「ごめんね」
「つぎはいいよっていって!」

なるほど、謝ったら許すところまでがセットなのだ。私たちは「いいよ」と口にして笑ってしまった。

なんてことだろう。まりあに仲裁されてしまった。私と修二が長年繰り返してきた悪癖みたいな喧嘩をまりあが一発で浄化してしまった。
修二がまりあを抱きあげ、そのお腹に顔を埋めた。愛おしくてしょうがないというように。それから私に顔を向け、尋ねる。

「なあ、正直に答えてほしい」
「なに?」
「あの、佐富という大学生が好きなのか?」

突然の質問に私は狼狽した。これほどストレートに質問されると思わなかったのだ。だけど、誤解はされたくない。

「好きじゃないよ。随分年下だし、職場の子だもん。意識したこともないよ」
「そうか」

修二はふーっとため息をついた。その安堵の吐息を聞き、私もなぜだかほっとしていた。

「まりあの父親は俺だけにしてくれ」
「そのつもりだけど」
「陽鞠の夫も、……俺だけにしてほしい」

私はちょっと笑って見せた。

「夫婦になったことないですけど」

修二は私を射貫くように見つめた。その瞳には強い力が宿っている。強い意志が感じられる。

「夫婦になれると思ってる。これから」
「無理だよ」
「俺は無理だと思ってない」

ドキンと鼓動が跳ねた。修二の視線は情熱を秘め、私を捉えている。