「お父さん、お母さん、私と修二は別れてるの。まりあのためだからって、こんな形で手を借りるのは絶対にダメよ」
「でも、陽鞠」
「勝手に決めないで。お父さんとお母さんは旅行に行けばいいわ。あとは私がどうにかする!」

強い口調で言い、苛立たしい気持ちのまま自室に戻った。
なんでこんなタイミングで旅行だなんてと思う一方、せっかく両親が旅行に行きたいと言っているのに、受け入れられない自分にもがっかりしていた。
父も母も、まりあが産まれてからずっと長期の旅行には行っていない。どころか、多くの点でまりあと私を優先して暮らしている。夢だった旅行だ。まりあがもう少し大きくなってからなんて考えて、もしどちらかが身体を悪くしたらどうするというのだろう。
本来の娘の仕事は笑顔で送りだしてあげることなのに。

自室にしている和室、お布団でまりあはすやすや眠っている。
ここで電話しては起こしてしまうので、スマホを手に一階に戻った。玄関から外へ出て、門扉のところで電話をかける。

『陽鞠? どうした』

修二はすぐに出た。家だろうか、職場だろうか。どっちでもいいや。要件だけ言って切ろう。

「あのね、うちの両親が無茶なお願いをしたみたいだけど」
『ああ、俺なら全然かまわないよ』

修二ははつらつとした声で答える。