しかし、同時に言い知れぬ不安感が私を満たしていた。今思えばマリッジブルーのような部分もあったのかもしれない。
仕事を辞め環境が大きく変わったことに漠然とした不安があった。朝起きて、仕事に行く修二を見送るとなんとも寂しい気持ちになる。私もちょっと前まではああだったのに。社会から取り残されているように思えた。

ママになることも不安だった。人の親になれるのだろうか。修二に対しても余裕のない態度ばかり取っていた私が赤ちゃん相手に笑って育児ができるだろうか。いつか、『この子がいなければ私は夢を叶えられたのに』なんて考えてしまう日が来たらどうしよう。

修二は修二で、幸せいっぱいといった様子には見えなかった。
私に気を遣っているように見えながら、どこか迷っているような素振りが見える。
どうやら私が海外転勤を蹴ったこと、仕事自体を辞めたことに、責任を感じている様子だった。誰より私が子どもを産みたくて、修二といたくて決断したことなのに、そんな態度を取られると悲しいものがある。私だって後悔してしまわないように必死なのに。修二に望んでもらえなかったらどうしたらいいんだろう。

一方で、修二が立場的に『結婚には早すぎる』と考えていたことも知っていた。事務所勤務二年目だ。まだ若手。授かり婚は予想外だったはず。
どこかで私や産まれてくる赤ちゃんをうとましく思っているんじゃないだろうか。そんな疑念すら浮かんでくる。

一緒に住みだしてから、以前のような大きな喧嘩はなくなった。その分、些細な喧嘩が増え、お互いを無視している期間も何度もあった。きっと、私も修二も徐々に疲弊し始めていた。
このままじゃいけないと思いつつ、修二と顔を合わせると苛立つ。修二もきっとそうだっただろう。