身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています

『まりあ、早いなあ。パパ、負けちゃったよ』

修二の言葉にまりあは万歳して喜んでいる。ご機嫌になったまりあを母に預け、私はひとり二階の自室に入った。

「ごめんね。それで、何か用事?」

修二はわずかに黙り、それから言った。

『もう一度会えないか?』
「え!?」

会ったのは一週間前だ。次に会うとしたら、それこそまりあが保育園の年長になる頃とか、小学校に上がる頃だと思っていた。精々年一回程度かと。

『頼む。どうしても話したいことがあるし、渡したいものがある』
「それは直接会わないと駄目なの?」
『ああ』

私の脳裏に、まりあに夢中だった修二の様子が過る。理由をつけてまりあに会いたいだけなのかもしれない。
修二にとっては可愛い娘。会いたがっているのを引き裂くのは本意じゃない。まりあもまた、修二を相手にすると大人びた口調を使ってみたり、ご機嫌になったりと、良い刺激が多い。
怖がっているのは私だけだ。修二がまりあを欲しがったらどうしようって。
自分の下で育成したいと言われたら、条件が不利なのは収入が低い私の方かもしれない。なにより修二は法律のスペシャリストだ。

『陽鞠、頼む。短い時間でもいいんだ』
「……わかった。じゃあ、次の日曜なら」
『ありがとう。またランチタイムでいいか? 店を決めたら連絡するよ』

電話はそれで終わりだった。
修二が私からまりあを奪おうとしているなんて、私の邪推だ。渡したいものなんて言っていたし、案外まりあにプレゼントを用意したのかもしれない。直接渡して喜ぶ顔を見たいだけなのかもしれない。

「気にすることじゃないよね」

私は自分に言い聞かせるように呟いた。