身ごもり婚約破棄しましたが、エリート弁護士に赤ちゃんごと愛されています

「陽鞠は変わっていないな」
「それって褒め言葉?」
「ああ、六月で三十歳だったよな」
「そうよ。修二は夏で三十二?」
「ああ、まりあと同じ八月生まれだ」
「そっか」

そこまで言って、ようやく私は修二を見つめた。気負っていないことを証明するように、静かに。
修二はやはりいい男だ。整った容貌は年齢を重ね、いっそう味わい深く男らしくなったように思う。将来を誓う恋人がいても不思議じゃない。

「修二、仕事は順調?」
「ああ、お陰様で。変わらず江田沼法律事務所で働いてるよ。最近、大きな顧客をいくつか受け継いだから、ちょうどやりがいが出てきたところだよ」

修二の務める江田沼法律事務所は中規模の弁護士事務所だ。企業向け法務がメインであり、修二もいくつもの大手企業の顧問弁護士をしている。

「うちはマチベン的な側面も大きいから、顧客には銀座界隈に古くから住んでいる商売人も多い。江田沼先生が顔繋いでくれて、結構可愛がってもらってると思うよ」
「そう、それはよかった」
「陽鞠は? 英語関連の仕事をしてるのか?」

私は修二に連絡をとらなかった。だから、今どんな仕事をしているか知らないのだ。

「花屋よ」

修二が意外そうな顔をする。ご期待に添えなくてごめんなさいね。ちょっと卑屈な気分で続ける。

「一応、正社員なの。二十三区内にもいくつかあるけど、フローリストコマツバラってところ。本社が大宮でね。仕事は楽しいわよ」

そう、得意だった英語は活かせてないかもしれないけれど、責任ある仕事をしている。正社員だから、まりあを育てていくにも充分な収入がある。
そこはアピールしておきたい。