ここで修二に何か言ってあげられる人間はいないのかもしれない。修二本人がひとりで立ち上がるべきなのだろう。だけど、私なら声をかけられる。おこがましいかもしれないけど、修二を一番知っているのは私だ。
息を吸い込み、それから声を張り上げた。

「だらしないな、和谷修二! 私の好きになった男ってその程度の男だったの?」
「陽鞠……」

修二が驚いた顔で私を見た。

「昔の修二はもっと力強くて、ちょっと強引で、明るくて最高にかっこよかったよ! 少なくともプライベートの影響を仕事に持ち込むようなプライドのないことはしなかった!」
修二がぎくっと肩を揺らした。

プライド。それは、修二にとって仕事への矜持の意味合いだ。弁護士として譲れないもののはずだ。

「修二が駄目になったら困る人がたくさんいる! わかっていてそれじゃ甘いんじゃない? カッコいいパパになるんでしょう? 私とまりあに応援させなさいよ!」

私は修二の切れ長の二重の瞳を見つめた。まりあによく似た瞳だ。

「私、三年前、これ以上大好きな人と喧嘩したくなくて別れたんだ。ふたりで頑張る努力を放棄したくなるほど、もう修二に嫌なこと言いたくなかった。修二にとって嫌な女になりたくなかった。私もまあまあ見栄っ張りだからさ」
「……俺もそうだよ。陽鞠に嫌われている日々がつらかった。俺の言葉で陽鞠をもっと傷つけたくなかった」