帰り道、ベビーカーを押しながらまりあに話しかける。

「まりあ、次のお休み何しようか。動物園とか行っちゃう?」

気を引き立てたくて、いろんな楽しい提案をする。

「それとも、まりあのお洋服買いに行こうか。可愛いのたくさん! それで、美味しいケーキを食べて帰ってくるの。まりあもママも虫歯にならないように半分こだけどね」

市販のケーキはまだ与えたことがないけど少量なら。まりあの活力になるなら。

「ケーキ」

まりあはケーキの単語に反応したようだ。ベビーカーに座り前を見た姿勢のまま答える。

「ケーキちゅくる」
「あ、まりあケーキ作りたいの? まぜまぜしたり、チョコスプレーをデコレーションしたいの?」

まりあの興味を引けたので、私は嬉しくなって覗き込む。まりあは乏しい表情のまま言った。

「ケーキ、ぱぱにおとどけでしゅってする」

私は驚いて二の句が継げなくなってしまった。まりあがケーキを作りたい理由は、修二に食べさせたいからなのだ。パパに会いたいからなのだ。

「まりあ、ママじゃ駄目?」

私は路上の片隅で立ち止まり、まりあの前に回り込んだ。ひざまずき顔を見つめる。

「まりあのケーキ、ママが食べちゃ駄目? おうちでじいじとばあばと食べちゃ駄目?」

パパがいないと駄目? ママひとりじゃ駄目?
まりあの世界にパパを連れてきたのは私。だけど、ママは寂しい。まりあがパパを恋しがることに無念さと責任を感じる。
私だけじゃまりあの親ではいられないのかな。