両親が無事に帰国したのは四月の半ばのことだった。正確に言えば無事ではない。父は外国での盲腸手術を経験しての帰国だ。
修二は両親が帰国するその日までまりあのお迎えを担当し、挨拶をして家を出ていった。父と母から大量のお菓子やベネチアングラスなどの工芸品を渡されて。
こんなにもらってどうするの?とこっそり尋ねると、実家にプレゼントするよと、修二は耳打ちを返した。
修二のご両親にも結婚前の挨拶っきり会っていない。私はまりあの写真を何枚か余分に持たせ、修二のご両親に送ってもらうことにした。

こうして私の日々は元に戻った。仕事の忙しさは月末頃には解消の予定だし、問題ない。
ただ、修二が出て行く際に、まりあが大泣きしたことだけが心に棘みたいに引っかかっている。
毎日一緒だったパパがいなくなる。まりあには大事件であり、ものすごくつらいことだ。その日は泣きつかれて気絶するように眠ってしまい、翌日も「パパは?」「パパ来るの?」がまりあの口癖。両親と私に「パパ来る?」を繰り返し、思った回答が得られず号泣するまりあは、見ていて痛々しいほどだった。

「最近はちょっとご機嫌ななめみたいですね」

四月の終わり頃、保育園で担任の先生に言われたことだ。私はまりあの荷物を手に連絡帳を受け取る。まりあは玄関先にひとりで行ってしまい、他の保育士に靴を履かせてもらっている。