「ただいま」

私はガスをキッチンの母に届けて、2階の自分の部屋へと上がる。

「龍さん、ただいま」

私は部屋のドアを開けて、龍さんに声を掛ける。

何事もなかったかのように振る舞おう。

そしたら、私たちは元通りに戻れるはず。

そう思っていたのに、龍さんが見ていたのは、漫画でも小説でもなく、本棚の隅に本と一緒に立ててあったフォトフレームだった。

別に写真をとっておきたかったわけじゃない。

B4サイズのそれは、高校生の私が一生懸命コラージュしたお気に入りの作品だったから。

捨てるに捨てられなくて、本棚の隅に立ててそのまま忘れてた。

ただそれだけなんだけど、そこに並んでいるのは、龍さんにそっくりな翔馬と仲良く写ってる写真の数々。

遊園地で笑ってる写真
海をバックに水着で寄り添ってる写真
カフェでその季節のドリンクで乾杯をしてる写真
有名私立の制服を着た翔馬と地元の高校の制服の私

「龍さん、違うの。確かに彼とは高校生の頃に付き合ってたけど、それだけで……」

龍さんは、そのフォトフレームを置いて立ち上がると、そっと私を抱きしめた。

「結乃を信じるよ。ただ、明日、帰る前に少し付き合ってくれないか?」

よく分からないけど、私はこくんとうなずいた。

私たちは、その後は、何もなかったかのように家族と一緒にすき焼きを食べ、龍さんの分の布団を私の部屋に敷いて、一緒に眠った。