「お、堂々とサボってるやつ発見」
声がして振り向くと、そこには先生が立っていた。それと同時に始業のチャイムが教室に鳴り響く。
先生からはほのかにタバコの匂いがする。タバコを吸う人は好きじゃない。でも先生の香りは不思議とそんなに嫌じゃない。
「また具合でも悪くなった?」
先生は私が低血糖症なことを知っている。
だからなのか前に「しんどかったら保健室で休め」「それが嫌ならバレない居眠りの仕方を伝授してやる」と言って、本当に教えてくれた。まあ、教科書を立てて壁を作るという古典的な方法だったけれど、思わず笑った。
教師が授業中に寝ることを許していいのって。
そんなくだらないことを教えてくれる大人は先生しかいないと思う。
「ほら」
先生はパーカーのポケットからオレンジ味の飴を取り出した。迷わずに差し出されたそれを私は素直に受けとる。
先生はちゃらんぽらんに感じるけれど、けっこう生徒のことを見ている。
きっと私がポーチを忘れて困っていたことなんて、先生にはお見通しなんだろう。