「えりか、そろそろ行くよー?」

三限目の休み時間。家庭科室に移動するために、友達たちが私のことを待っていた。

早く行かなきゃいけないのに、ちょっと体がふらふらしている。急いでカバンを開けて〝あるもの〟を取り出そうとしたけれど、それが入っているはずのポーチがない。

ヤバい、家に忘れてきた。

「えりか? どうかした?」

「ご、ごめん。私、職員室に寄ってから行くから先に行ってて」

「課題の出し忘れ? 一緒に行くよ?」

「平気。すぐに追いつくからさ!」

「そっか。わかった」

友達の足音が遠ざかり、教室には私だけになった。安心した途端に、ふらつきを我慢できなくなり、ガタッと後ろに倒れる。

ちょうど机があったのでそのまま腰を預けて深呼吸をした。

私には、低血糖症という持病がある。

文字どおり糖が足りなくなると、こうして貧血を起こしたり気分が悪くなる。だからいつも飴を持ち歩いて、まずいなと思った時にはすぐに糖分を補給するんだけど……。

今日は飴が入っていたポーチごと置いてきてしまったようだ。

ちなみに友達には持病のことは話していない。心配かけたくないし、大事(おおごと)にすることでもないから。