ハルカカナタ

「まあ、でも『才色兼備』って褒め言葉は有り難く受け取っておくわね」

　悪戯っぽい笑みを浮かべる綾は、普段より幼く見えて少しだけ胸が高鳴った。

「・・・好きにしてくれ」

「ところでカナタもラノベを読むの？」

「博人程じゃないけどな。綾はよく読むのか？ラノベ」

「そうね。私も坂下君程ではないと思うけど読む方だと思うわ。最近のお気に入りは【高花流華】ね」

「・・そうか」

「新人だしまだまだ文章は拙い所も多いけれど、補って余りあるリアリティは素晴らしいわ。私の勘だけれど『彼』の実体験なのじゃないかしら」

　綾の悪戯っぽい笑みを見た時とは比べ物にならない程ドクン！っと心臓が跳ね上がる。

「『彼』ね、僕は名前的に女の人かと思ってたけど、男の人なんだな」

　内心を悟られない様に平静を装いながらも、疑問を返した。綾の視線が探るような物なのも、気付かないフリをする。

「あら？意外ね。カナタなら気付くと思ったのだけれど。公式には男性とも女性とも明記されてはいないけれど、視点や文章は明らかに男性のそれだと私は思ったわ」

「そんなに買いかぶられても困るけど、全然気付いてなかったよ」

「これでも私の中のカナタの評価はかなり高いのよ、頭も良いしね」

「だから、買いかぶり過ぎだよ」

「私は正当な評価をしているつもりよ」

「・・・そう言えば綾は飯は食べないのか？」

　自分でも強引な話題転換だとは思ったが、これ以上この話題を続けるのは僕の精神影響上よろしくない。

「・・・まあいいわ。今日は少し朝寝坊してしまって、朝ご飯が遅くなってしまったからまだお腹が空いていないのよ」

「これまた意外だな。寝坊とかするのか」

「だからカナタの中で私はどんなイメージなのよ、寝坊ぐらいするわよ。むしろ朝は余り強くない方だと思うわ」

　先程の怪訝な表情とはまた違い、拗ねた様に綾が言う。今にも唇を尖らせそうな勢いだ。

「喋り方が上品なのもあるけど、立ち振る舞いとか見てるといいとこのお嬢様っぽいからな。美人だし」

「なっ、何を突然言ってるのよ！」

「突然ってお前がどんなイメージか聞いて来たんだろ？」

「だ、だだからって美人とか綺麗とか軽々しく言う事じゃないでしょ！」

「いや、お前はラノベのツンデレヒロインかよ。つかさり気無く綺麗って追加してるし」

　綾の白い肌がチークのそれとは違う赤みに染まっている。

　分かり易過ぎるだろ。

　喋りながら食べていた所為でいつもより多目に時間が掛かってしまったが、ようやく食べて終わった僕は静かに手を合わせた。

　いつの間にか食堂のテーブルが9割方埋まっていて、満席になるのも時間の問題だった。

「混んで来たし、僕はそろそろ行くよ」