「どうして・・」




 ハルカを連れ戻す為にフランスに行かなければならず、当然パスポートが必要になった僕は実家に取りに戻った。

 後から聞いた話しだと、春歌はそこまで計算して留学とゆう手段を取ったらしい。

 とにかくパスポートの場所は母さんに聞かなければわからない僕は、仕方無く母さんにパスポートの場所を尋ねたが、突然そんな事を言えば怪しまれのは必然で。

「その顔どうしたの?それにパスポートなんて何に使うの?」

 と、当然の質問をされた。

 適当に嘘をついて誤魔化す事も出来たが、春歌を連れ戻すには物理的にも気持ち的にもどうしたって両親の説得が必要になる。

 どちらかと言えば母さんの方がまだ言いやすい、母さんを説得出来れば父さんも説得しやすくなる。

 これが覚悟だ。

「母さん、僕、春歌の事が好きなんだ」

「知ってるわよ。貴方達2人とも昔からべったりだったじゃない」

「そうじゃない、僕は春歌の事が異性として、女の子として好きなんだ」

「何・・言ってるの?」

「この事は春歌も知って・・」

 言いかけた僕の言葉は後ろから肩を掴まれて引っ張られた衝撃で遮られ、直後、博人に殴られた場所を同じように殴られて尻餅をついた。

 一瞬何が起きたか理解出来なかった。

「・・!」

 だが、目の前で真っ赤な顔をして仁王立ちする父さんを見て殴られたのだとわかった。

 言葉を発する事も忘れる程怒りのこもった視線は、僕の見た事がない父さんの姿だった。

 厳格な父さんだったが、今程怒りを含んだ視線を向けられたのは記憶にない。心臓が縮み上がってしまったような錯覚すらあった。

「変な事を言ってる自覚はある!殴られるのもわかる!理解して貰えないのも当然だと思う!でも!僕は春歌が好きだ!」

 それでも、言うと決めた。

 両手と両膝を床につけて、額を床に擦り出来る限りの声を張り上げる。

「このっ・・!」

 あまりの怒りで言うべき言葉が出て来ないのか、父さんは無理矢理僕の身体を起こして殴った。

「ちょっとお父さん!落ち着いて!」

 父さんのあまりの剣幕に危険を感じた母さんが止めに入ったが、それでも父さんは収まらない。

「奏多!今は話しなんか出来る状態じゃないから行きなさい!」

 母さんが悲鳴を上げるように言ったのを聞いて、落ちていたパスポートを拾い家を転がり出た。

 その足で着替えも持たずにフランス迄行って、日本を発つ前に綾に聞いた住所を尋ねた。

 僕が来た事に対してか、僕の姿があまりに酷かったからか、春歌はしばらく泣いていた。

 それから2ヶ月、まだ実家には行っていない。今日撮った写真を持って春歌と2人で行くつもりだった。