何処に座ろうか考えながら見渡すと、入り口から1番奥側の2人が掛けのテーブルがぽつんと空いているのが見えた。他の2人掛けのテーブルは空いておらず、4人掛けのテーブルに1人で座るのも気が引ける。

 【ぽつん】と表現したのは理由が有り、その2人掛けのテーブルにはボッチ席とゆう座るのを考えさせられる通称が付いているからだ。

 なぜボッチ席なのかと言うと、他のテーブルが並べられている一帯と、そのボッチ席の間に存在意義のわからない柱がやたらと立っていて隔絶されているからである。

 流石に無意味に柱を立てているわけは無いとは思うが、それならいっその事ボッチ席を置かなければいいのにと思ってしまう。

「カナタ、ここ空いてるわよ。どうぞ」

 どうしようか悩んでいると、比較的近くにあったテーブルからそんな声が聞こえて来て、顔を向けると一分の隙もない笑顔があった。
 
「・・綾か、いいのか?」

 呼び慣れない名前に少し重巡して、何とか口にする。

「ええ、どうぞ」

 4人掛けのテーブルに全く違和感なく1人で座って居たのは綾だった。

 僕やハルカの同級生で、頭脳明晰、容姿端麗、しかも高校の時にはテニスで全国大会準優勝のまさに才色兼備を絵に描いた様な人間だ。

「悪いな」

 一言断ってから綾の向い側の椅子に座り、綾との共通の話題なんて僕には持ち合わせはないので、両手を合わせてから箸を動かす。

「そう言えば今日は坂下君は一緒ではないのね」

「博人は明後日のラノベの新刊の為に今日から並ぶらしい」

 坂下は博人の名字だ。博人に言わせれば『ノゾミちゃんの等身大ポスターの為』なのだろうが、まあ、詳細まで話しても仕方がないだろう。

「明後日とゆうと【僕が妹に抱いている気持ちは恋ではないはず】の新刊だったわね。それにしても、坂下君は相変わらずのザンメン振りね」

「え?」

 綾の口からラノベのタイトルが飛び出すとは思ってもいなかった僕は思わず箸を止めて、綾の顔をまじまじと見つめてしまった。

「何かしら?」

 呆気に取られた僕の顔を見て、綾は怪訝な顔を返して来る。

「いや、まさか綾の口からラノベのタイトルが出てくるとは思ってなかったから」

「カナタは私をなんだと思ってるのかしら?私だって普通の女子大生よ。元々本は好きだし、ラノベだからって偏見もないわ。あれはあれで一つの文学の形よ」

「へー・・・全く人は見掛けによらないもんだ。才色兼備の完璧な綾がラノベとはね」

「・・・完璧な人間なんて居ないわよ。さっきも言った通り私も普通の女子大生、ショッピングだって行くし、カラオケも行く、ゲームセンターにも。普通の女の子みたいに恋だってするわ」