僕の雰囲気から何かを察したのか、ハルカも真剣な表情で頷いた。

 リビングに入って絨毯の上に僕が座ると、ハルカが向かい合って座る。

「ハルカ」

「うん」

「隣、おいで」

「・・うん」

 ハルカが少し恥ずかしそうにはにかんで、座ったまま隣まで来て僕の肩にコテンと頭を乗せた。

「ずっと考えてた。僕達が一緒に居る為に子供が出来る様な事はしちゃダメだって」

「うん・・」

「でも、それはしちゃダメだって事で、したくないわけじゃない、むしろ、やっぱりしたい」

「うん・・」

「コンドーム使っても、可能性はゼロじゃないし僅かでも可能性があるならしちゃダメなんだと思う、だけど僕はもし子供が出来ても後悔しない。勿論、それは僕のエゴだってわかってる。許されないし、ハルカにも産まれてくる子供にも辛い思いをさせてしまう。僕は僕を正当化する気はないし自分でもおかしい事を言ってる自覚もある。それでも、もし子供が出来たら、僕は僕の全てをかけてハルカと子供を守っていきたいって思う。子供が出来ないように最大限の避妊はする、でも出来た時の事も考えてる」

 どんな美辞麗句を並べた所で、僕の行動は間違っている。頭のイカれた事を言っている。

 僕は狂っている。

「だからハルカ、僕はハルカとしたい、ハルカが良ければだけど・・」

「私も覚悟はしてる。でも、覚悟をしてるつもりなだけかも知れないとも思う、考えが甘いのかもしれないし、何もわかってないのかもしれない、だから全部受け止める覚悟をする。私がわかってる事も、わかってない事も全部受け止めるって覚悟する。私もカナタとしたい・・」

 決意を目にやどしたハルカはそのまま唇を重ねた。勢いをそのままに押し倒される。

「ハルカ、待った」

 昂った気持ちに水を差すなと言わんばかりに恨めしそうにハルカが僕を見詰める。

「コンドーム、買って来るから」

「持ってる、私の鞄の中」

「え、コンドーム持って歩いてんの?」

「バカ!カナタが買ってないからじゃん!私だって恥ずかしかったんだから!」

「いや、だって、しない方がいいって思ってたし・・」

「もう!とにかく持ってるから大丈夫!」

 言い放ったハルカが僕に跨り覆い被さった。そのまま唇を

「ハルカ、待った」

 付けられる前に言葉を割り込ませる。

「何!!」

「キレるなよ!もうひとつ大事な事、ハルカ、ピル持ってるよな?」

「・・何で知ってるの?」

「いや、まあ、コンドーム買ってるぐらいだし、持ってるかなって」

「ん〜・・」

 訝しむよな視線を向けてハルカは唸ったが、すぐに口を開いた。

「まあ、持ってるよ」

「それ、病院で貰ったやつか?」

「そうだけど、なんかこうゆうの通販とかで買うのも怖かったし」

「わかった!」

 そして僕達はお互いの欲望に抗う事なく、幸せを噛み締めるように求め合った。

 筆舌にし難い程満たされていく心は全ての現実を僕から切り取って行く。

 これから先の日々からすれば刹那にも満たないその僅かな時間だが、その日々を打ち消してあまりあるだと心から思えた。

 きっともうこれから先、僕とハルカがひとつに交わる事はないだろう。たった1度結ばれた瞬間、どちらからともなく僕もハルカも涙を流していた。




 いつの間にか眠ってしまったらしく、目を覚ました時には既に日付が変わって2時間経っていた。

 僕の胸に身体を預けて寝息を立てているハルカの頭をそっと撫で、僕は少しでも現実から目を背けてようと目を閉じて微睡みに身を委ねた。

 人生で最幸の日から2日経ち、明日から学校が始まる夏休み最終日。

 






 ハルカはいなくなった。