僕達は花火の音を遠くに聴きながら屋台を回った。

 手は繋がっていないが、もっと身体の奥の方で繋がっているのうなその感覚が心地良くて、僕もハルカも笑顔が途切れる事はなかった。




 夏休みも残すところ2週間を切ったその日、僕は駅ビルにあるカフェに来ていた。時刻はもう少しで10時、テーブルにはレジで買ったコーヒーとジャスミンティーが置いてある。

「高花先生、お待たせしてすみません」

 相変わらず仕事に関しては優秀な巻町さんが、ベージュのキッチリしたパンツスーツを着て席に着いた。

「いえ、今来た所ですから」

「それで、早速ですがメールの件について聞かせていただけますか?」

 3日前、僕は書き上がった原稿と一緒にメールである事を巻町さん・・春川出版に伝えていた。

「はい、本当に突然で申し訳ないと思っています。御迷惑をお掛けするのもわかっています。各方面の関係者の方々には直接会ってお詫びをするつもりです」

「本気で作品を完結させるんですね・・」

 そう、僕がメールで伝えたのは次巻での【妹恋】の完結。

 勿論、ハルカとの事を考えての決断だった。

 このまま【妹恋】を続けていけばいつ誰に疑われるかわからない、可能性としては高くはないがゼロではないのも確かで、それを考えた結果だ。

「そうですか・・残念ですが、先生がそうおっしゃられるなら仕方ありませんね。アニメ化の話しも上がっていたので、挨拶回りは私も同行しますね」

「本当にすみません。巻町さんには迷惑をかけ通しで・・」

「とんでもない、高花先生は締め切りもちゃんと守っていただけますし、添削の作業もすぐにしていただいていたので、編集としては凄くいい作家さんでしたよ」

「そう言っていただけると少し気が楽です。それで、送った原稿は?」

「あ、はい、幾つか添削をして頂く所はありますけど、特に問題は無いです。『終わらせた』感も無いですし大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

「どうして突然完結させようと思ったか聞かせて頂いてもいいですか?」

「メールでも書きましたけど、学生ですから勉強に集中したいだけですよ」

「・・そうですか」

 本当の事を言うわけにもいかないので、用意した言い訳を告げたが巻町さんは納得出来ていない顔をしていた。

「もしまた新作を書いた時は是非連絡してください」

「はい、その時は是非」

 おそらく僕が物語を書く事はもうないだろうと思いながら、そう言ってから僕は席を立った。

 何処にも寄り道をせず、真っ直ぐ家に帰るとハルカが迎えてくれた。

 それは今までと変わらない光景なのに、今は全く違う気持ちになれる。