僕の準備から遅れる事30分程でハルカの準備も終わり、講義が始まる30分前に部屋を出た。大学迄は歩いて20分で着くから丁度いい時間になるだろう。

 朝日と呼ぶには少し高い位置にある太陽を背にして、他愛もない話をしながらゆっくりと歩く。やがて住宅街を抜けて、商店の並ぶ道を通る。

 飲食店はまだオープン前の時間だからシャッターが降りていても不思議では無いが、明らかに飲食店では無いのにシャッターが降りている店がいくつかあった。

 そんな商店街を抜けて、交差点を右に曲がり大学方面に向かう。ここで電車通学の学生と合流する為、大学生らしき姿がチラホラ増えてくる。

 2限の英語はハルカも同じなので、門を潜ってから校舎に向かう。

 途中で同じ英語を取っている女子のグループに会う。ハルカもたまに一緒に居る女の子のグループだが、僕との接点は殆どない。

「おはようハルカ」

「おはよ〜綾!」

 綾と呼ばれた子がハルカに挨拶すると、他の女子達も次々と挨拶を口にし、ハルカはそれに1人ずつ名前を付けて返していた。

 ひと通り挨拶の応酬が終わったのを見計らって、歩き出そうとした僕に『おはよう』と声が掛けられた。

 振り返るとハルカに綾と呼ばれていた、1番初めに声を掛けて来た女の子が僕を見ていた。

「あぁ、おはよ・・綾、さん」

「綾って呼び捨てでいわよ。私もカナタって呼ぶから」

 綾はハルカほどでは無いが、充分に美人と言って差し支えない顔立ちをしている。ただ、ハルカは美人と可愛いが混ざったどちらとも言える顔立ちなのに対して、綾ははっきりとした美人タイプ。女子にしては身長が高めの163センチあるハルカよりも少し高く、160後半ぐらいだろうか。

 その身長の高さとスレンダーながらも出る所はきっちり出ているスタイルも相まって、何処ぞのモデルでもしていそうな感じだ。

「いや、呼び捨てに関しては僕の了解もちゃんと取ってくれ」

「あら、ダメかしら?」

 綾の緩くウェーブがかかった背中まである髪を、風が遊んで行く様はさながら女王様と言った程だ。

「ダメなわけじゃ無いけど」

「じゃあ改めてよろしく、カナタ」

「よろしく」

 用は済んだので、身体を校舎に向けて歩き始める僕の背中に

「今度遊びに出掛けましょうね」

と、綾の声が聞こえ

「カナタは私のだからそうゆうのは私を通してもらわないと!」

と、ハルカの声がそれを追いかけていた。

 何も聞こえなかった事にしてサッサと校舎に入ったが、ハルカは綾達と行くのかついて来なかった。



 講堂に入ると見知った顔を見つけて隣に腰を下ろす。

「カナタか、う〜す・・」

「博人、お前また徹夜か?」

「いやぁ、ノゾミが寝かせてくれなくてさ」

 博人は高校時代からの友人で、同性の僕から見ても整った顔立ちをしている。加えて大学に入ってから髪を銀色に染め、それが彫が深い欧米系の顔に合っていて某男性アイドルグループ顔負けのイケメンに仕上がっている。

「今度は何処の女の子なんだ?」

 そのイケメンっぷりを考慮すれば、僕と博人の会話を勘違いしても仕方がないだろう。そう、それは勘違いである。

「何処のも何もノゾミって言ったら【妹恋】しかないだろ!?」

「いや、知らないから、一般常識みたいに言うのやめてくれ」

 博人は極度のラノベオタクだ。それもオープンな。

「カナタはノゾミの可愛さを知らないからそんな事言えるんだよ!大学の講義に【妹恋ノゾミ】の必修がない事に俺は絶望したよ!」

「そんなピンポイントな講義があってたまるか」

 なので、博人はモテるが一定の期間が過ぎると女の子は去って行く。そもそもが博人自身2次元、いや、文字元の女の子にしか興味がないのだからどうしようもない。

「はぁ・・目の保養だわ〜」

「ほんとね・・完全観賞用なのが残念だけど」

 そんな具合に今も同じ講堂に居る女子達から漏れ聞こえている。付いたあだ名が残念なイケメンを略して【ザンメン】。