「わ、私は貴方の事が好きでふ、す。契約とかじゃなく、私と付き合って欲しい」

 噛んだ。

 とは勿論言えず、だけど彼女は可愛くて、綺麗で、思わず頬が緩んでしまう。

「な、何よ、笑うなんて酷いじゃない」

「ごめんごめん、ついな」

 綾の気持ちは素直に嬉しいと思えた。迷いなく真っ直ぐに伝えられた想いは、ちょっとくすぐったくて、胸を熱くさせられた。

「ありがとう。本当に嬉しいよ、すげー嬉しい。でも、ごめん」

 だから、僕には彼女の気持ちに応えられなたい。

 ハルカが居なければ、きっと2つ返事で了承していたのだと思う。でも、居なかったらなんて考える事に意味はない。ハルカは居て、僕は兄なのだから。

「綾の気持ちには応えられない」

「そう、わかったわ。とゆうよりはわかっていたと言うべきかしらね」

「・・悪い」

「告白してフラれるとゆうのはこうゆうものなのね、これからはもう少し真摯に対応出来そうだわ」

 綾は泣かない、俯きもしない、きっとそれは彼女のプライドなのだろう。

「ひとつお願いがあるのだけれどいいかしら?」

「僕に出来る事なら」

「私はそれなりにカナタに傷付けられたと思うの」

「・・そうだな」

「そう思っているのなら、1発殴らせて貰ってもいいかしら?」

「は?」

「1度してみたかったのよ、ほら、ドラマとかであるじゃない」

「いや、まあわからなくはないけど・・わかったよ」

「ありがとう、じゃあ行くわよ」

「ありがとうってもなんかな・・」

「うーん・・何かやりにくいから目を閉じて貰える?」

「いや、目を閉じたらいつ殴られるかわからなくてめっちゃ怖いんだけど」

「早く」

「マジか・・」

「マジよ」

 仕方無く目を閉じ、瞼の裏側を見ながら衝撃に備えて歯を食いしばる。

「それじゃあ行くわよ」

 綾のその言葉の直後に唇に柔らかい感触がして目を開く。

「んっ・・」

 漏れる吐息。

 睫毛の数も数えられそうな程近くに綾の顔があった。

「ふぅ・・」

「おまっ・・何を」

 漸く解放された僕が言えたのはそんなつまらない言葉だけ。

「あら、1発殴らせて貰うって言ったでしょ?」

「・・なんつーベタな手に」

「失礼ね、私の初めてをあげたのだからもう少し嬉しそうにしなさい」

「はいはい・・ありがとうございました」

「何か色々と納得いかない返事だけどまあいいわ。さあ、話しは終わりよ、いつまでもそんな顔を見せられているのも不快だからサッサと行きなさい」

「ああ、じゃあな」

 何も言わず、何もしないのが今僕に出来る唯一の行動、僕は綾に背中を向けて来た道を引き返して学校に向かった。

 僕の知る限りの話だが、初めて綾が講義に来なかった。