「何かって程でもないけど、まあ一悶着あってハルカの兄貴として全力を尽くす事にした」

「おかしな事を言うわね。そもそもカナタがあの子の兄である為にこの契約があった筈なのだけど」

「それはそうなんだけど、さっき言った様に『全力で』やる事にしたんだ」

「それは・・」

 綾の表情が険しくなり整った顔が崩れる。

「もしかしてハルカが『兄として私だけを見て』と、でも言ったのかしら?」

 綾の言葉はまるで昨日の僕とハルカの聞いていたかの様に、正確にその言葉を再現していた。

「・・どうして」

「その反応は図星とゆう事ね。まあ予想していたって言うのもあるんだけれど」

「とにかく、そうゆう訳だから悪いけど契約をなかった事にしてくれ」

「まったく腹立たしいわね、そんな子供みたいに中途半端な事を・・」

「え?」

 綾のその言葉は小さく、僕の耳には届かなかった。

「カナタ、貴方忘れていやしないかしら?私達は遊びで付き合っているわけじゃないのよ、貴方には私と付き合っていかなければならない理由があるはずよ」

「忘れてないよ、忘れてない上で言ってる。だから頼む」

 僕は椅子に座ったまま、膝に手をついて頭を下げた。こんな事をしても納得してもらえないだろうが、他に方法がない以上仕方がない。

「シスコンここに極まれりね・・」

 綾にしては珍しく悪態をついて大きく息を吐き出した。

「まあいいわ、契約は無しでいいわよ。誰にもカナタの事は話さないって約束してあげる」

「僕から言い出しといてなんだけど、いいのか?」

「元々こんな歪な関係がいつまでも続けられるとは思っていなかったし、目的も半分だけど達成出来たしね」

「目的半分って綾の男避けか?」 

「・・そんなところよ」

 どこか含みのある口振りだったが、聞いても答えてくれそうにないので聞き流しておく。

「まあ、少しでも役に立てたなら良かったよ。これからは友達としてよろしく頼むよ」

「待ちなさい、まだ話しは終わっていないわよ」

 立ち上がった僕を綾が不敵な笑みを浮かべて呼び止めた。

「まだなんかあるのか?」

「白々しいわね、気付いているのでしょ?」

「・・まあ、何となく、な」

 綾が今から何を言おうとしているのか、推理とゆう程の事もない、幾度かのデートをしてそれなりに一緒の時間を過ごして来たのだから。

「契約の件についてはさっきも言った通りで構わないわ、約束は守る。だから、今から言うのは打算も何も無い私の本心からの望み」

 ラノベにありがちな病的なまでの鈍感主人公が羨ましい。そんな事を考えていたが、どちらにしろ今から思い知るのだから関係ないかと思い当たる。