「っざけんな!!」

 『兄』でなんて居たくない

「都合の良い様に使ってんのはハルカの方だろうが!!」

 『兄』になんてなりたくなかった

「一樹さんが一樹さんが一樹さんが!知るかよ!」

 『好きだ』って言いたかった

「僕がその名前を聞く度に、お前が泣いてるのを見る度にどんな気持ちでだったか知らねえだろ!」

 抱きしめたかったんだ

「僕は!僕は!」

 ただ、何も考えずに抱きしめたかった

「ハルカの事が!」

 この腕の中に【妹】じゃない【ハルカ】の温もりを感じたかった

「ちゃんとお兄ちゃんで居てよ!」

「え?」

 遮る様に放たれた言葉は空気を裂く鋭いそんな声。

「ちゃんと私だけのお兄ちゃんで居てよ、何処にも・・・行かないでよ」

 悲鳴。

 消え入るような悲鳴だった。

「は?何言ってんだよ、どっかに行こうとしてるのはお前だろ?」

「嫌なの!私以外に優しくしないで!私以外に笑いかけないで!私だけを見て!私だけのお兄ちゃんで居て!」

 それは僕が1番望む言葉と1番望まない言葉を孕んだ叫び。

「・・綾の事言ってんのか?」

「・・・」

 多分何を選んでも正解じゃなくて、誰を選んでも間違いで、もう誰も傷付かずには終わらない。

 間違いしかない、そんな選択肢しかないなら僕が選ぶのは

「わかった。僕はハルカのお兄ちゃんで居るよ。何処にも行かない。ハルカだけを見てる」

 ハルカ。

 僕はハルカを後ろから抱きしめる。

 【男】として心から望んだその行為を、心に刃を突き立てる様に【兄】として、【妹】の華奢な身体を抱きしめた。

 それがハルカの望みなら僕は何も厭わない。

 とっくに僕は壊れているのだから。