「確かに自分と考え方が似てるなと思う人も居ますけど」

「ね、つまり、『何処を』とか『何で』とか好きになった理由なんて無いのよ。私がカナタ君を好きなのは『貴方だから』好きなのよ」

 そこを考える事に意味は無いって事か・・

「ところでさ」

「はい?」

「貴方とカナタって似てるよね」

「もうホントどうでもいいですから」

 巻町さんは『なによ〜!』などと唇を尖らせているのはスルーしておく。

 理由について考える意味はないのはわかる。

 どんな理由にせよ、僕がハルカに抱いている気持ちは無くなる事はなくて、僕がハルカに抱いている気持ちを世界は認めてはくれない。

「ただね、カナタ君。誰かを好きになるって事は悪い事ではないのよ、例えそれが法的にも道徳的にも誰にも認められない相手だとしても、たった1人、貴方が好きになったその人が認めてさえくれたら、夫婦じゃなくても、恋人と呼ばれなくても、一緒に居る事は出来る」

「認めてくれたら・・」

「その代わり、覚悟はしないといけないけれどね」

「傷付く覚悟ですか?」

「傷付ける覚悟よ。周りの人を傷付けて、自分や好きな相手を傷付けて、きっと何も残らない、愛しいその人以外何も残らない、その覚悟」
 
 周りの全てを傷付けて、全てを捨てて、ただ愛しい相手と一緒に居たい。映画やドラマの世界ならば一途な愛とでもキャッチフレーズが付くかも知れない。

 しかし、それを現実ですると

「それって、もう・・」

「カナタ君が考えている通りよ。それをもう普通の人達や世界は『愛』とは呼ばない。究極の自己満足ね」

 傲慢で利己的なエゴイズム。

 それは兄妹でも恋人でも夫婦でもない狂った関係。敢えて近しい呼び名をつけるなら【共依存】。

 傷付くのも傷付けるのも覚悟は出来る。全てを投げ打ってでもハルカが居てくれるなら他に何もいらない。

「まあ物語としてアリかなしかなら、アリではあるけど、ノゾミが仲の良い兄妹を望んでいる今の状況ではそっちにテコ入れは無理よ」

「え?」

「え?だって【妹恋】の方向性じゃないの?」

「あ・・勿論そうですよ」

 通りで仕事以外ポンコツな巻町さんがまともな事を言っていたわけだ。

「いけない!もうこんな時間!じゃあカナタ君、またね!」

 巻町さんを見送ってから、余らせてしまったコーヒーとサンドイッチを申し訳なく思いながらも、余り物用のゴミ箱に捨てた。

 外に出るとまだ日は沈んで無かったが、気温は大分下がっているのか身震いをした。

 1人で歩く家路は知らない街を歩いている様な、何とも言えない気分がして少し足早で家に帰った。