綾との契約から3日がたったGWの初日『今日デートしましょう』と、無料通話アプリを通してメッセージが来た。

『午前中は打ち合わせあるから、午後からなら』

 お互い絵文字もスタンプも使わないそのメッセージは業務連絡の様に見える。まあ、契約恋人だからあながち間違ってもいないが。

『わかったわ、打ち合わせは何処でするの?』

『こないだ綾と行ったカフェ』

『じゃあそこに13時でどうかしら?』

 ざっくり打ち合わせの時間を考えてから『わかった』と返信した。

『ついでにそのままお昼御飯を済ませましょう。先に食べない様にしてね』

『打ち合わせなんだから飯なんか食べないから』

『あら、中にはファミレスで御飯食べながらとか、居酒屋でお酒呑みながら打ち合わせする作家さんも居るらしいわよ』

「マジか」

『とにかく食べないから』

 軽く衝撃を受けたが、その事に関しては触れずにやり取りを終わらせた。

『ええ、よろしくね』

 時間は9時半、今から歩いて行けば待ち合わせの10時に丁度いいだろう。

 ベージュの7部丈のパンツに足を通して、シンプルな白いシャツの上に黒のカーディガンをはおってから玄関に向かった。

「ちょっと出て来る、多分帰るの夜になるから」

 部屋に居る筈のハルカに声を掛けてから、靴を履き玄関のドアを開けた。

「何処行くの〜?」

 ハルカの声は聴こえないフリをしてドアを閉めた。

 青い空は抜けるような奥行きがあり、5月にしては少し寒さを感じる空気だが、昨日のニュースで言っていた通りの行楽日和だった。

 殆どの店のシャッターが降りて居る商店街を抜けて、いつもは曲がる交差点を真っ直ぐ突っ切り駅の方へ向かう。

 連休初日にしては人がまばらなのはまだ少し時間が早い所為だろう。

 まばらな人の中でもさらに少ないがスーツ姿の人も何人か見えて『大変だなぁ』などと他人事の様に思ったが、自分も仕事だったと思い直す。

 カフェに着いてぐるっと店内を見渡して見たが、どうやらまだ待ち人は来ていないらしかった。

 先に飲み物を買っておこうと、レジの方に向かうと店員の女の子に『いらっしゃいませ!店内でお召し上がりですか?』と笑顔で対応される。

「はい」

「かしこまりました。では、ご注文はお決まりでしょうか?」

「ブレンドコーヒー1つと、ジャスミンティーをホットで1つお願いします」

「以上でよろしいでしょうか?」

「はい」

「ではお会計が700円になります」

 千円札を出すと、お釣りを渡されて『ありがとうございました』と笑顔で見送られた。

 入り口から少し奥まった所にあるテーブル席に着いてから時計に目を向けると、10時丁度を指していた。