「正解。春川出版編集部の編集長は私の父なの」

「でも、だからって僕と高花流華がイコールにはならないだろ?」

「勿論父が私にそんな個人情報を漏らしたりしないわよ。元々『もしかして』ってぐらいの可能性は考えていたの、カナタとハルカを知ってからね」

 綾はまるで刑罰を言い渡す裁判官の様な表情で続ける。

「【高花流華】」

 当然被告人席には僕が居て。

「【タカハナルカ】」

 彼女は同じ言葉を微妙にイントネーションを変えながら繰り返して、刑罰を言い渡した。

「カナタ、ハルカのアナグラム、よね?」

「・・よく気付いたな」

 綾は僕の言葉に眉根を寄せて眉間にシワを作った。

「寧ろ気付かれないと思っていたカナタの思考回路が心配なのだけれど・・。まあ、それは良いわ」

 しれっとディスられた僕は綾に倣って眉間にシワを作る。

「それで、そのアナグラムに気付いて暫くしてから、父に着替えを持って行くのに編集部を訪ねたの。ああゆう仕事だから帰れない事もよくあるから」

 それに関しては納得が出来る。編集部に僕が行く言葉そうそうないが、いつ行っても怒号と罵声と焦燥が飛び交っていて、世界が滅亡の危機にさらされた時の作戦本部の様な慌ただしさがある。

「で、その時にたまたま僕が居たって事か」

 綾が頷くのを見て舌打ちをしたい気分に駆られる。

「それで、認めたとゆう事でいいかしら?」

「そこまで知られててどうやって誤魔化すんだよ」

「まあ無理ね。じゃあもうひとつ質問、とゆうか確認なんだけれど」

「・・なんだよ」

「貴方は、カナタはハルカを愛している」

「・・んなわけないだろ」

「常識的に考えればそうよね。とゆうよりは、そう答えざるを得ない」

「・・・」

「【血の繋がった双子の妹であるハルカを異性として愛している】なんて、言える筈がないものね」

「そんな訳ないだろ。何言ってんだ」

「貴方が認めようが認めまいがどちらでも構わないのよ、私の中で確信しているから。だから」

 綾はそこで区切りを付けて、ひとつ息を深く吐き出した。

「高花流華の事をハルカにバラされたくなければ、私と付き合いなさい」

「・・腐ってんな」

「そうね・・自覚してるわ。きっとロクな死に方はしないわね」

 自嘲するように渋い笑いを溢した綾は、すっかり冷めてしまったコーヒーに手を伸ばした。

「今更だけれど、貴方にとってもメリットのある話よ」